訴      状

2001年6月29日

東京地方裁判所 民事部 御中

合祀絶止・遺骨返還・損害賠償等請求事件

訴訟物の価額 金2,460,187,672円也


請求の趣旨

1 被告は別紙原告目録1記載の原告らの親族について、訴外宗教法人靖国神社における合祀を絶止せよ。 

2 被告日本国は別紙2記載の原告らに対して、記載上対応する各犠牲者の遺骨を返還せよ。

3 被告日本国は別紙3記載の原告らに対して、記載上対応する各親族の生死の別・死亡の場合はその年月日・場所・原因・態様を具体的に明らかにせよ。

4 被告日本国は原告らに対して、別紙当事者目録原告欄記載の各金額、及びこれに対する1945年8月15日以降支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5 被告日本国は原告らに対して、別紙謝罪文を交付すると共に、被告日本国の費用により同文を、大韓民国に於て発行されている日刊新聞紙である、ハンギョレ新聞・東亜日報・中央日報・朝鮮日報に、日本に於て発行されている日刊新聞である、朝日新聞・毎日新聞・読売新聞・産経新聞・日本経済新聞に、各縦20p×横10p以上の大きさを以て掲載せよ。

との判決並びに第4項について仮執行の宣言を求める。


請求の原因

【目次】

T 緒論

 第1 当事者

   A 原告

   B 被告 

 第2 事案の概要及び本件訴訟の趣意

 

U 総論(植民地支配と戦争への動員)

 第1 韓国併合と植民地支配

   A 韓国併合

   B 植民地支配

 第2 戦争への動員

   A 兵站基地化政策

   B 皇民化政策

   C 軍要員としての動員

 

V 各論(本件不法行為等)

 第1 本件不法行為等の事実

 第2 靖国合祀による不法行為

   A 靖国神社について

   B 原告らの親族の靖国神社への合祀

   C 原告らの被侵害利益

   D 被告の行為の違法性

   E 補論(名誉毀損構成)

   F 小結

 第3 徴兵・徴用等の不法行為責任

   A 併合条約の無効性

   B 併合条約無効による各不法行為

 第4 遺骨返還の契約責任等

   A 死亡・死亡状況未通知・遺骨未返還

   B 傷害

   C 未払い金

   D 軍事郵便貯金

   E BC級戦犯

   F シベリア抑留

 第5 謝罪文の広告請求

 

W 結語    


T 緒論

第1 当事者

A 原告ら

 原告らはいずれも大韓民国の国民で、日本帝国統治下にあって「帝国の臣民」として、徴兵ないし軍属として徴用された本人、ないしその遺族である。この徴兵・徴用の結果、後記のとおりの被害を受け、また現に受けているため、その回復を実現すべく本訴に及んだ。

 なお、原告らはすべて、別紙謝罪文に名宛人として記載されている二つの団体のうち、いずれか一方の会員である。

B 被告

 被告日本国は、法人格的に日本帝国を継承し、日本帝国のなした不法行為等の責任を負う者であり、かつ現に原告に対して一定の権利侵害をなしている者として、その責任を負うべき者である。

 

第2 事案の概要、および本件訴訟の趣意

 旧大日本帝国は、1910年の併合以降1945年の敗戦に至るまで、36年間に亘って韓国(旧大日本国側からする植民地としての名称は「朝鮮」)を植民地として支配した。

 同帝国は韓国国民を日本人と同じく「天皇の赤子」であるとなし、当初は志願兵(実質は強制)として、後には徴兵して帝国の軍隊に編入し、帝国主義戦争に従軍せしめた。また多数の国民を徴用し軍属として雇用し、労働せしめた。

 このため悲惨な戦死者・傷病死者ないし障害者が、多数生み出された。

 しかるに、これらの痛ましい犠牲者については、遺骨も返還されず、多くの場合、そもそもの死亡の事実についても遺族には知らされていない。また然るべき補償も行われず、賃金さえ未払のまま50年以上も放置されてきた(被告日本国は戦後、日本人については厖大な金額の軍人恩給等を支給し続けてきているが、等しく死地に赴かしめたにもかかわらず、韓国人に対しては賃金すら支払わず、全く何の補償も行っていない。)。

 このため、ようやくに生還し得た被徴兵・被徴用者本人はもとより、犠牲者の遺族は、戦後の社会的動乱の中を、塗炭の苦しみを味あわされつつ、必死に生き抜いてきた。

 しかるに、これらの人々は、本来、大日本帝国の植民地政策・戦争政策の犠牲者であったにもかかわらず、むしろ(被告日本国が、未だにその戦争責任を明確にしないため)社会的には、「日帝への協力者」視されざるを得ないことも多く、二重三重の被害・苦しみを味あわされ続けてきているのである。

 しかも許されがたいことに、被告日本国は、このように一方に於いて犠牲者・その家族に対し、かって自分たちが勝手に与えた「天皇の赤子」の地位には全く相応しくない冷酷無情の仕打ちを続けながらも、他方に於いては、遺族の強い反対意思をも敢えて無視しつつ、「日本(天皇)のために尊い命を捧げた日本人」などとして靖国神社に合祀するという、まことに自己本位手前勝手な政策をとり、被害者の民族として固有する人間性を、現に侮辱し否認し続けている。

 本件訴訟は、未払金の支払等全く当然の権利行使を行うと共に(外国人がこのような当然の権利を行使しようとするのに、裁判まで行わなければならないというのは、まさに日本の恥辱である。)、被告日本国によって、都合のよいときのみ「日本人」としつつ、現実には平然と貶しめられ否認されている、韓国人被害者の人間性を主張し回復することを期して、提起されるものである。

 

U 総論(植民地支配と戦争への動員)

 日本は、1968年の明治維新後、直ちに大韓帝国への侵略を開始し、1910年には、遂に韓国を併合し、完全な植民地として支配し、産物から土地、果て は人まで自国のために収奪した。

 以下に、本件で問題になる徴兵・徴用の素地との関係についてのみ極く簡単に 支配の実情を述べる。

第1 韓国併合と植民地支配

A 韓国併合

1 明治政府はその成立当時から、朝鮮の植民地化を国家的目標としてきたが、1875年の江華島事件以来、朝鮮への内政干渉を続け、日清・日露の両戦争を経て朝鮮における支配的位置を確立、1905年、日本軍が朝鮮王宮を包囲する中で、伊藤博文が大韓帝国政府の大臣等に強要して、「乙巳保護条約」に調印させた。この条約により韓国は外交権を奪われ、外交を監督するとの名目で日本から送り込まれた韓国総監による徹底した内政干渉によって、事実上日本の植民地とされていった。そして、1910年8月22日、ついに日本は当時の大韓帝国政府に「大韓帝国皇帝陛下ハ韓国全部ニ関スル一切ノ統治権ヲ完全且永久ニ日本国皇帝陛下ニ譲渡スル」との韓国併合条約を押しつけ、朝鮮を完全に日本の植民地にした。こうして、朝鮮に住む全ての人々は大日本帝国「臣民」とされた。

2 法的評価としての併合条約無効論は、後記V・第3・Aにおいて詳述するが、上記の「韓国併合条約」締結に至る経緯は以下のとおりである。

A 大日本帝国が、独立国であった大韓帝国の主権(外交権)を奪い、これを「保護国」とした1905年締結の「保護条約」(第二次韓日協約)は、軍を伴う大日本帝国政府代表者らが、大韓帝国皇帝はもとより、参政大臣(首相)、外部大臣などの大臣ら国家を代表する個々人を直接「強制」することによって署名させた。「ソウル内至る所に配備された日本軍隊と先着の林公使の迎えるなかを、表向きは韓国皇帝慰問使の資格で、伊藤博文が11月9日来着、徹底的な日本側の「威脅」のもとで、同月17日、第二次「日韓協約」が調印されたのである」(渡辺学「朝鮮近代史」勁草書房111頁)。当時の大韓帝国皇帝高宗も、この条約は「自己ノ意思ニ反シ日本政府ヨリ強制セラレタリ」として、この条約を無視して国際社会への支援を要請し、1907年6月オランダのハーグで開催中の万国平和会議に三名の密使を派遣したことは歴史上の著名な事実であり(ハーグ密使事件。朴慶植「日本帝国主義の朝鮮支配 上」青木書店・1973年、54頁注G)、このことからも右条約の締結が強制によるものであったことは極めて明らかである。

 かかる「保護条約」は、当時の国際慣習法の原則に照らし、締結の時から効力を生じていなかった。現に、1960年代前半、国連における重要会議の討議の過程で、右原則によって締結の時から効力を発生しない条約の実例として、ナチスドイツによる行為を含む四事件の一つとして、この「保護条約」強制事件が挙げられていたのである。

B ところで、韓国併合条約は、かかる無効の「保護条約」を前提に締結された。すなわち、右「保護条約」の履行として、大日本帝国政府任命の「統監府」が韓国におかれ、大韓帝国の外交に関する事項を管理し、その外交関係・事務は東京の外務省と日本の外交代表者・領事が行使することになった。そして、韓国併合条約締結については右統監が日本代表を務め、総監の指示で行動する傀儡大韓帝国内閣総理大臣李完用が韓国代表を務めたのである。

 したがって、右条約締結行為は、いずれも無効の条約に基づいた「代表者」の行為に他ならない。1905年の「保護条約」が無効とすれば、大韓帝国の完全な主権は存続していたのであって、その主権を代表する国家の意思は「保護条約」締結時たる1905年11月17日当時の大韓帝国皇帝(高宗)とその内閣(参政大臣が主宰)が行使すべきものであったのである。

 以上のように、韓国併合条約は、当時の大韓帝国の代表者が締結したものではなく、絶対的に無効としか評しえないのである。

B 植民地支配

 日本は天皇が直接任命する朝鮮総督のもとに総督府を設置し、軍隊と警察を一元化して、「武断政治」と呼ばれる強権支配を行って朝鮮を支配し、朝鮮語の言論や教育を弾圧する一方、「土地調査事業」「林野調査事業」等を実施して朝鮮農民の土地を収奪した。

 このような植民地支配に反対し、1919年には朝鮮全土で200万人を越える人々が「独立万歳」を叫ぶ3・1独立運動に立ち上がった(日本国内では当該運動について、時に「万歳事件」などという侮蔑的な呼び方をしてきた。)。しかし、日本は非武装の朝鮮人に武力弾圧を加え、約7000人の朝鮮人が日本軍警によって殺害された。

 3・1運動の高揚に懲りた朝鮮総督府は、「文化政治」を標榜して、朝鮮語の新聞発行を一部承認する等の懐柔策を採った。しかし、1920年に始まった「産米増殖計画」により、15年間に増産率2割に対して日本への移出は4倍にする飢餓輸出を強要するなど、植民地収奪の実態に変わるところはなかった。

 

第2 戦争への動員

A 兵站基地化政策

 日本は1931年に満州事変、1937年に日中戦争を引き起こし、中国への本格的な侵略を始めた。日本は、朝鮮を中国侵略の「兵站基地」(人的・物的資源の補給基地)と位置付け、食糧や工業資源の略奪を強化すると共に、朝鮮人を戦争遂行のための人的資源として利用しようとした。

B 皇民化政策

 朝鮮人を戦争遂行の人的資源とするには、朝鮮人からその民族性を奪い、日本に隷属させ、天皇に忠義を尽くさせる必要がある。このため、日本政府はいわゆる「皇民化政策」を推進した。天皇に忠誠を誓う「皇国臣民の誓詞」を事ある毎に唱えさせ、朝鮮各地に勤労奉仕によって神社を建立し、その参拝を強要し、「創氏改名」を実施して氏名を日本風に改めさせた。

C 軍要員としての動員

1 従軍慰安婦

 1930年代末期から日本軍は朝鮮人女性を従軍慰安婦として強制連行し始めた。強制や甘言によって、主に10代の女性を連れ去り、日本軍兵士の性欲のはけ口としてその人格を蹂躙した。これらの女性の連行や慰安所の管理に、日本軍が直接関与していたことは、今日では疑いの余地無く証明されている。

2 軍属

 国民徴用令による軍属としての朝鮮人動員は、1939年に開始されていたが、対米戦争開始以来、その数が急激に増大した。厚生省発表によると、1945年までに15万4907名の朝鮮人軍属が動員され、日本本土や南洋諸島で、軍事土木工事・炊事係・捕虜監視要員や運輸要員として労働させられた。

3 志願兵制度

 一方、日本政府は当初、朝鮮人に武器を持たせることを恐れていたが戦争の際限のない拡大の中で、朝鮮人青年の軍人としての動員に踏み切った。1938年2月、陸軍特別志願兵令(勅令第95号)を公布、同年3月に勅令156号で、6カ月期間の志願兵訓練所官制を制定し、羅南・咸興・平壌・大邸などに陸軍兵志願者訓練所を設置、同年4月から志願兵制度を実施した。また、太平洋戦争が始まり、海軍の兵力が不足すると、1943年7月、海軍特別志願兵令(勅令607号)を公布、鎭海に海軍兵志願者訓練所を設立し、10月1日から朝鮮人青年を海兵として養成し始めた。更に、1943年には、学徒志願兵として、専門学校・大学の朝鮮人学生が戦場に動員された。

 1938年から1943年の間に、これらの志願兵として動員された朝鮮人青年は2万3681名である。一方、これに志願した者の数は80万5513名にのぼるとされ、朝鮮総督府等はこれを朝鮮人青年の「愛国的熱誠」によるものと宣伝した。しかし、現実には「志願」とは名ばかりで、面(日本でいう「村」にほぼ該当する)ごとに人数を割り当て、地方の官吏や警察による強制動員が行われた。日本本土で学ぶ朝鮮人学生に対しては、志願しない者は炭坑等へ徴用するとの恫喝まで行って強制的に志願させた。80万人を越える膨大の志願者数は、むしろ強制の存在を証明するものである。

4 徴兵制度

 日本政府は、対米戦争が始まり、より多くの兵力が必要になると、朝鮮人青年の戦争への動員をより義務的なものにするため、1942年5月、1944年度からの徴兵制導入を決定し、「徴兵制施行準備委員会」を設立して準備に取りかかった。そして、中学以上に現役将校を配属し、国民学校卒業生は青年訓練所、国民学校未修了者は青年特別錬成所に義務的に入所させ、軍事訓練や皇民化教育を行い、同年10月には徴兵適齢届を行わせた。こうした準備を経て、1944年4月、ついに朝鮮に徴兵令が適用され、1945年までに20万9279人の朝鮮人青年が戦場に狩り出された。

5 朝鮮人軍人軍属の処遇

 日本軍は、朝鮮人青年を動員したものの、その反乱を恐れ、朝鮮人だけの部隊は編成せず、日本人部隊の中にバラバラに配置した。このため、ただでさえ暴力の横行した日本軍隊内で、朝鮮人兵士達は民族的偏見に基づく虐待や私的制裁に耐えねばならなかった。また、南方では、朝鮮人軍属は英米人捕虜の監視業務を担当させられたため、戦後、BC級戦犯として処刑された者もいた。結局、戦場に狩り出された40万人近い朝鮮人軍人・軍属のうち、約15万人は帰還していない。

 

V 各論(本件不法行為等)

第1 本件不法行為等の事実

 本件原告ら被った不法行為等を構成する事実は、甲第1ないし252号証に記載されたとおりであるので、ここにこれを引用する。なおこの際、各書面において「私」と記載されている部分は、全て「原告・・・」と読み替えるものとする(・・・部分には当該書面の作成名義人の名前が読み込まれるものとする。)

 これら被害は、それぞれ

     徴用・戦闘配備・死亡・労働・傷害・賃金未払

     死亡結果未通知・遺骨未返還・靖国神社合祀

等々を内容としている。

 本件訴訟において原告らは、これら事実を前提として、被告に対して不法行為 責任等を追及し、原状回復及び損害賠償(国家賠償法1条1項)等の請求をなす ものである。

 

第2 靖国合祀の不法行為

A 靖国神社について

 靖国神社は、天皇を「現人神」とする国家神道の中心的神社として、第二次世界大戦敗戦(以下「戦前」という)までは、陸、海軍省の管轄のもと、天皇に忠誠を尽くして亡くなった人を祭神として祭っていた神社である。明治維新(1868年)の内戦(戊申戦争)のときに天皇側に立って旧幕府軍と戦い命を落とした人々の「霊を慰め」るために、明治天皇が現在の場所に建てたのが、靖国神社の由来である(なお、1879年以前は東京招魂社と呼ばれていた)。

 国内では靖国神社の他、護国神社が整備され、台湾、朝鮮、満州にも同様の神社を創建し、植民地支配下の人民に参拝を強制したことは周知の事実である。 戦後は、GHQの「神道指令」で国家神道が廃止され、靖国神社は、1946年、宗教法人として存続することになった。

 靖国神社は、宗教法人化後も、軍人・軍属等の戦没者を、戦前の国家神道思想に基づき、天皇に忠誠を尽くして死んだ日本国の英霊として、現在も合祀している。

B 原告らの親族の靖国神社への合祀

 靖国神社は別紙原告目録記載1の原告ら(以下、「目録1の原告ら」と言う。)の親族を第二次世界大戦の戦没者として合祀している。

1 合祀手続及び合祀への国の関与

A 戦前

 戦前は、陸海軍省で一定の基準を定め、戦没者が生じた時点において陸海軍大臣官房内に審査委員会が設置され、出先部隊長または連隊区司令官からの上申に基づき、個別審査のうえ、陸海軍大臣(他省関係大臣会議の場合もある)から上奏裁可を経て、合祀が決定され、官報で発表、合祀祭が執行された。

 このように戦前は、国家神道思想に基づき靖国神社への戦没者合祀はまさに国の行為として行われていた。

B 戦後

 戦後は、1945年、将来靖国神社に祭られるべき陸海軍軍人軍属等の招魂奏斎のための臨時大招魂祭が執行され、同祭において招魂された「みたま」のなかから、合祀に必要な諸調査のすんだ「みたま」を、1946年以降57回にわたって合祀してきている。

 この戦後の合祀は、敗戦後の第1、第2復員省の資料及び厚生省からの通知に基づき、旧陸海軍の取り扱った前例を踏襲して、靖国神社が合祀しているものである。

 即ち、戦後も厚生省は、戦前の例にしたがい、合祀対象になる第二次世界大戦の軍人・軍属等の戦没者について、戦没者名簿を作成し、少なくとも1977年ころまではこれを毎年、靖国神社に通知していた。

 一方、靖国神社も、戦前の陸海軍大臣からの上奏裁可に変わるものとして、国(厚生省)からの通知に従い、その名簿に記載された戦没者を、毎年、合祀してきたのである。

 このように戦後は、靖国神社の宗教法人化にともない、直接には国の単独行為そのものとしては行われてはいないが、少なくとも1977年ころまでは、上記の合祀手続きから明らかなように、厚生省からの通知により、国と靖国神社とが一体となり、あるいは国の委任をうけて靖国神社が合祀を行っているのである。

 目録3の原告らの親族のうち、戦後に合祀された者は、このような日本国の行為に基づき、靖国神社に合祀されている。

C 原告らの被侵害利益

1 民法709条にいう「権利を侵害する」とは、法律上明定された権利の侵害に限定されるものではなく、法的な保護に値する利益を違法に侵害することをもって足りるとされ、この理は国家賠償法1条1項にいう「違法に他人に損害を与えたとき」との規定についても同様であり、当該文言が法的な保護に値する利益の違法な侵害を意味するものであることは、裁判例上も講学上もほぼ確立しているところである。

2 原告らの有する法的利益(民族的人格権)

A憲法13条は「個人の人格価値にかかわり、それを侵害されない権利」(有斐閣/野中俊彦外「憲法T」新版・249頁)としての人格権を保障し、人格権は「人格侵害の態様は様々であるから、・・・人格価値の諸側面に応じた、いくつかの個別的権利を含む包括的な権利である」(同書同頁)とされる。

 さらに裁判例においても「個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益は、各人の人格に本質的なものであって、その総体」(大阪高判S50・11・27)が人格権であるとされている。

Bところで、目録1の原告らは、自らの意思に反して、自らの親族を靖国神社に祀られてしまった者達である。靖国神社は、戦前の国家神道の中心的神社であって、その基本的なあり方は現在も引き継がれている。そして、神道が日本民族固有のものであるのは明白であり、韓民族である目録3の原告らはいずれも、当然に神道を信仰していない。

 かつ、靖国神社は、天皇のために死亡した者を祭神として祀っており、ここには、@大日本帝国による朝鮮国(その後の大韓帝国)に対する侵略及び、A韓民族に対する36年間の植民地支配、並びに、Bこれに続く(前記のとおり韓半島を兵站基地化した上での)アジア諸国への侵略戦争の、各主謀者及び積極参加者(以下、前記@ABを併せて「侵略戦争の主謀者及び積極参加者」と言う。)も含まれている。

 そうすると、目録1の原告らの各親族は、侵略戦争の主謀者及び積極参加者とともに、天皇のために忠誠を尽くした国家神道上の祭神として合祀されていることになる。要するに、侵略された民族の構成員が、侵略戦争の主謀者及び積極参加者とともに、侵略した民族固有の宗教によって、侵略した国家の主権者及び元首(旧憲法第1条及び第4条)もしくは象徴(憲法第1条)に忠誠を尽くした者として祀られているのにほかならない。

C上記の事実が、目録1の原告らの人格価値のうちの被害民族としての側面を侵害していることは明らかである。かかる人格侵害に対応するものとして、目録1の原告らには、自らの意思に反して、自らの親族が、侵略戦争の主謀者及び積極参加者とともに、侵略した民族固有の宗教によって、侵略した国家の主権者(元首)もしくは象徴に忠誠を尽くした者として祀られることを拒絶する法的利益があると言わねばならない。

 当該法的利益は、その侵害について金銭賠償請求権を発生させるに止まらず、原状回復としての合祀絶止請求権をも発生させる。

D 被告の行為の違法性

1 憲法13条違反

 上記Bのとおり、被告は靖国神社と一体となり、あるいは同神社に委任して、目録1記載の原告らの親族を合祀することによって、上記C記載の民族的人格権を侵害しており、当該行為は憲法13条に違反する。

2 憲法20条3項違反

A憲法20条3項は「国およびその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。」と規定している。

 上記条項にいう宗教的活動とは、最高裁判所の判例によれば、当該行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいい、ある行為が宗教的活動にあたるかどうかを検討するに当たっては、当該行為の行われる場所、当該行為に対する一般人の宗教的評価、当該行為者が当該行為を行うについての意図、目的及び宗教的意識の有無、程度、当該行為の一般人に与える効果、影響等、諸般の事情を考慮し、社会通念に従って、客観的に判断しなければならないものであるとされる(最高裁昭和46年(行ツ)第69号、同52年7月13日大法廷判決・民集31巻4号533頁)。

Bところで靖国神社が行う合祀は、戦前の国家神道思想に基づき、戦没者等の霊を祭神として祭祀するものであるから、靖国神社と一体となって合祀をする国の行為、あるいは厚生省の通知を通じて靖国神社に合祀を委任する国の行為が、その目的において宗教的意義をもつことは疑いを入れない。

 また、国が靖国神社と一体となって軍人・軍属等の戦没者合祀を行い、あるいは国が靖国神社に合祀を委任する行為は、靖国神社を特別な存在として位置づけ、靖国神社を援助、助長するものであるから、その効果において、特定の宗教に対する援助、助長となるものであることも多言を要しない。

 従って、上記最高裁判所の判例の見解に拠るとすると、上記の国の行為は、憲法20条3項によって国およびその機関がなすことを禁止された宗教的行為であることは明らかである。

Cよって国が靖国神社という宗教団体と一体となって行った合祀行為、あるいは靖国神社に合祀を委任した行為は、憲法20条3項に違反するものであり、同条項の定めに違反した国の行為は、我が国社会の公の秩序に反するものとして、私人に対する関係で違法な行為である。

3 国際協調主義(憲法前文)違反

A憲法前文は「自国のことのみに専念し、他国を無視してはならない」として、諸国民と民族の平等互恵主義を強調し、「平和を愛する諸国民の公正と信義に立脚する」と宣明している。

Bしかるに、韓国国民・韓民族の人格権を一方的に無視してまでも、犠牲者の靖国神社合祀を強行することは、正に「自国のことのみに専念し、他国を無視する」以外の何ものでもなく、その前文に現された根本規範に反し、違法であることが明らかである。  

E 補論(名誉毀損構成)

1 前記のとおり、目録1の原告らは、その意思に反して、自らの親族が、「侵略戦争の主謀者及び積極参加者とともに、侵略した民族固有の宗教によって、侵略した国家の主権者(元首)もしくは象徴に忠誠を尽くした者」(以下、「天皇に忠誠を尽くした戦死者」と言う。)として祀られている者達である。

2 ところで、当該合祀の事実は、現に韓国社会において不特定または多数人に広く知られるところであって、既に1978年には韓国人軍人軍属の遺族らから、訴訟を含む合祀拒否の動きが起こっていた。そのきっかけとなったのは、1977年に当の靖国神社が、来日中のある台湾人に合祀通知書の配布を依頼したことにある。当該通知書に添付された文書から、朝鮮出身の元軍人軍属役2万200人も靖国神社に合祀されていることが明るみに出、上記の動きが始まったのである。

3 そうすると、少なくともこの時点から、目録1の原告らは、「天皇に忠誠を尽くした戦死者」の遺族として、不特定または多数人に認識されることとなった。韓国国内においてこのように認識されることは、、前記してきた日韓関係史に照らせば、目録1の原告らの人格的価値の社会における評価(社会的評価)を低下させるものであることは明白である。

4 よって、目録1の原告らは被告に対し、名誉毀損としての不法行為(国家賠償法1条1項)による損害賠償請求権、並びに民法723条に基づく合祀絶止の請求権を有する。

F 小結

 以上の被告の違法行為の結果、目録1の原告らが利益を侵害されたことによる精神的損害を金銭に換算すると、請求の趣旨記載第4項記載の金額を下ることはない。

 そこで、目録1の原告らは、被告に対し、

 @ 人格権及び民法723条に基づき、請求の趣旨第1項記載のとおり同原告らの親族の靖国神社への合祀の絶止を求めるとともに、

 A 請求の趣旨第4項記載の各金額の支払い

を求めるものである。

 

第3 徴兵・徴用等の不法行為責任

A 併合条約無効論

1 1910年8月22日、大韓帝国は、大日本帝国との間で、韓国併合に関する条約(当該条約の日本側名称。英文翻訳Treaty Regarding the Annexation of Korea to the Empire of Japan。いわゆる韓国併合条約。明治43年条約第4号。以下「併合条約」という。)を締結したとされた。しかし、併合条約は、以下にみる理由により不成立、ないし当初から当然に無効である。

2 詔勅における御名の署名の欠如による併合条約の不成立・無効

A1910年当時、大韓帝国において、正式条約(TREATY)としての併合条約の成立要件は、

 @皇帝から全権委員に対する全権委任状への皇帝の御名御璽

 A両国の全権委員の条約文への署名捺印

 B条約についての皇帝の詔勅への皇帝の御名御璽(の署名捺印)

 であった。

 Bについては、本来、批准書が必要であるが、批准手続を待つ時間的余裕がないため、併合条約については、両国皇帝の詔勅をもって批准に代替することになったものである。

C併合条約については、このうちのBにつき、韓国皇帝の御名の署名が欠けている(なお、御璽の捺印は存在するが、そもそも韓国側御璽は、1907年以降、日本側統監府が奪取していたため、1910年当時も日本側が管理・占有していたものである。)。

C 以上のとおり成立要件を欠く以上、併合条約は不成立、ないし当初から当然に無効である。

3 併合条約に先立つ各協約の不成立・無効による併合条約の不成立・無効

A 第二次日韓協約

 @ 1905年11月17日、大韓帝国は、大日本帝国との間で、いわゆる第二次日韓協約(日本側名称。英文翻訳agreement。明治38年外務省告示第6号。以下「第二次協約」という。)を締結したとされた。

 A しかし、上記締結過程において、第二次協約締結についての代表権を有する大韓帝国の代表者に対して、大日本帝国側から、条約締結に同意するよう、行為及び脅迫による強制が行われ、かつ、上記強制により、上記代表者は、同協約の締結への同意の表明を強いられた。

 B したがって、第二次協約締結についての大韓帝国の同意の表明は、上記強制の結果、行われるに至ったものである。

 C 1905年当時においても、条約に拘束されることについての国家の同意の表明は、それが、国家の代表者に対する強制の結果、行われたものである場合には、いかなる法的効果も有しないとされていた(ウィーン条約法条約51条参照)。

 D 第二次協約は不成立、ないし当初から当然に無効である。

B 第三次日韓協約

 @ 1907年7月24日、大韓帝国は、大日本帝国との間で、いわゆる第三次日韓協約(日本側名称。英文翻訳agreement。以下「第三次協約」という。)を締結したとされた。

 A 第三次協約の日本側代表者とされているのは、「統監」である。統監は、第二次協約に基づいて設置された独任制国家機関であり(第二次協約第3条)、統監たる地位に基づいて全権委任行為なきまま第三次協約を締結したものである。

 B 第二次協約が不成立、ないし無効である以上、同協約に基づく統監の行為もまた、不成立、ないし無効である。

 C 第三次協約は不成立、ないし当初から当然に無効である。

C 併合条約

 併合条約は、無効の第三次協約を前提に締結されたものであり、やはり当然に無効である。

 @ 1907年7月24日、大韓帝国は、大日本帝国との間で、いわゆる第三次日韓協約(日本側名称。英文翻訳agreement。以下「第三次協約」という。)を締結したとされた。

 A 第二次協約、第三次協約が不成立、ないし無効である以上、同協約に基づく統監の行為もまた、不成立、ないし無効である。

 B 併合条約は不成立、ないし当初から当然に無効である。

D 植民地時代の法令の無効

 併合条約が無効である以上、併合条約の有効を前提に大日本帝国が大韓帝国(朝鮮)及びその国民に関して1910年8月22日以降に制定した全法令もまた無効である。

  

B 併合条約無効による各不法行為

1 徴兵

A 本人たる原告ら

 @ 別紙原告目録4記載の原告ら(以下「目録4の原告ら」という。)は、被告の法令により、徴兵された。

 A しかし、徴兵の根拠となった法令は無効である。

 B 被告は、目録4の原告らに対し、何らの法的根拠なく、これを徴兵したことにより、その権利を侵害した。

 C 目録4の原告らは、上記権利侵害により多大の精神的損害を受け、その損害を金銭に算定すれば、少なくとも別紙原告目録4記載の各人につき記 載する金額を下回ることはない。  

 D よって、請求の趣旨第4項記載のとおりの判決を求める。

B 相続人たる原告ら

 @ 目録4の原告らの別紙原告目録4記載の被相続人ら(以下「目録4の被相続人ら」という。)は、被告の法令により、徴兵された。

 A しかし、徴兵の根拠となった法令は無効である。

 B 被告は、目録4の被相続人らに対し、何らの法的根拠なく、これを徴兵したことにより、権利を侵害した。

 C 目録4の被相続人らは、上記権利侵害により多大の精神的損害を受け、その損害を金銭に算定すれば、少なくとも別紙原告目録4記載の各人につき記載する金額を下回ることはない。

 D 目録4の原告らは目録4の被相続人らを相続した。  

 E よって、請求の趣旨第4項記載のとおりの判決を求める。

 

2 徴用

A 本人たる原告ら

 @ 別紙原告目録5記載の原告ら(以下「目録5の原告ら」という。)は、被告の法令により、徴用された。

 A しかし、徴用の根拠となった法令は無効である。

 B 被告は、目録5の原告らに対し、何らの法的根拠なく、これを徴用したことにより、その権利を侵害した。

 C 目録5の原告らは、上記権利侵害により多大の精神的損害を受け、その損害を金銭に算定すれば、少なくとも別紙原告目録5記載の各人につき記 載する金額を下回ることはない。  

 D よって、請求の趣旨第4項記載のとおりの判決を求める。

B 相続人たる原告ら

 @ 目録5の原告らの別紙原告目録5記載の被相続人ら(以下「目録5の被相続人ら」という。)は、被告の法令により、徴用された。

 A しかし、徴用の根拠となった法令は無効である。

 B 被告は、目録5の被相続人らに対し、何らの法的根拠なく、これを徴用したことにより、権利を侵害した。

 C 目録5の被相続人らは、上記権利侵害により多大の精神的損害を受け、その損害を金銭に算定すれば、少なくとも別紙原告目録5記載の各人につき記載する金額を下回ることはない。

 D 目録5の原告らは目録5の被相続人らを相続した。  

 E よって、請求の趣旨第4項記載のとおりの判決を求める。

 3 戦地配備

A 本人たる原告ら

 @ 別紙原告目録6記載の原告ら(以下「目録6の原告ら」という。)は、被告の法令により、軍人・軍属として戦地に配備された。

 A しかし、配備の根拠となった法令は無効である。

 B 被告は、目録6の原告らに対し、何らの法的根拠なく、これを戦地配備したことにより、その権利を侵害した。

 C 目録6の原告らは、上記権利侵害により多大の精神的損害を受け、その損害を金銭に算定すれば、少なくとも別紙原告目録6記載の各人につき記載する金額を下回ることはない。  

 D よって、請求の趣旨第4項記載のとおりの判決を求める。

B 相続人たる原告ら

 @ 目録6の原告らの別紙原告目録6記載の被相続人ら(以下「目録6の被相続人ら」という。)は、被告の法令により、戦地に配備された。

 A しかし、戦地配備の根拠となった法令は無効である。

 B 被告は、目録6の被相続人らに対し、何らの法的根拠なく、これを戦地配備したことにより、権利を侵害した。

 C 目録6の被相続人らは、上記権利侵害により多大の精神的損害を受け、その損害を金銭に算定すれば、少なくとも別紙原告目録6記載の各人につき記載する金額を下回ることはない。

 D 目録6の原告らは目録6の被相続人らを相続した。  

 E よって、請求の趣旨第4項記載のとおりの判決を求める。

4 戦闘

A 本人たる原告ら

 @ 別紙原告目録7記載の原告ら(以下「目録7の原告ら」という。)原告らは、被告の法令により、軍人として戦闘に参加させられた。

 A しかし、戦闘参加の根拠となった法令は無効である。

 B 被告は、目録7の原告らに対し、何らの法的根拠なく、これを戦闘参加させたことにより、その権利を侵害した。

 C 目録7の原告らは、上記権利侵害により多大の精神的損害を受け、その損害を金銭に算定すれば、少なくとも別紙原告目録7記載の各人につき記載する金額を下回ることはない。  

 D よって、請求の趣旨第4項記載のとおりの判決を求める。

B 相続人たる原告ら

 @ 目録7の原告らの別紙原告目録7記載の被相続人ら(以下「目録7の被相続人ら」という。)は、被告の法令により、軍人として戦闘に参加させられた。

 A しかし、戦闘参加の根拠となった法令は無効である。

 B 被告は、目録7の被相続人らに対し、何らの法的根拠なく、これを戦闘参加させたことにより、権利を侵害した。

 C 目録7の被相続人らは、上記権利侵害により多大の精神的損害を受け、その損害を金銭に算定すれば、少なくとも別紙原告目録7記載の各人につき記載する金額を下回ることはない。

 D 目録7の原告らは目録7の被相続人らを相続した。  

 E よって、請求の趣旨第4項記載のとおりの判決を求める。

5 労働

A 本人たる原告ら

 @ 別紙原告目録8記載の原告ら(以下「目録8の原告ら」という。)原告らは、被告の法令により、軍属として労働に従事させられた。

 A しかし、労働従事の根拠となった法令は無効である。

 B 被告は、目録8の原告らに対し、何らの法的根拠なく、これを労働させたことにより、その権利を侵害した。

 C 目録8の原告らは、上記権利侵害により多大の精神的損害を受け、その損害を金銭に算定すれば、少なくとも別紙原告目録8記載の各人につき記載する金額を下回ることはない。  

 D よって、請求の趣旨第4項記載のとおりの判決を求める。

B 相続人たる原告ら

 @ 目録8の原告らの別紙原告目録8記載の被相続人ら(以下「目録8の被相続人ら」という。)は、被告の法令により、軍属として労働に従事させられた。

 A しかし、労働従事の根拠となった法令は無効である。

 B 被告は、目録8の被相続人らに対し、何らの法的根拠なく、これを労働に従事させたことにより、権利を侵害した。

 C 目録8の被相続人らは、上記権利侵害により多大の精神的損害を受け、その損害を金銭に算定すれば、少なくとも別紙原告目録8記載の各人につき記載する金額を下回ることはない。

 D 目録8の原告らは目録8の被相続人らを相続した。  

 E よって、請求の趣旨第4項記載のとおりの判決を求める。

6 死亡

A 別紙原告目録9記載の原告ら(以下「目録9の原告ら」という。)の別紙原告目録記載の被相続人ら(以下「目録9の被相続人ら」という。)は、被告の法令により、徴兵・徴用・戦地配備・戦闘・労働させられた。

B しかし、上記の徴兵・徴用・戦地配備・戦闘・労働の根拠となった法令は無効である。

C 目録9の被相続人らは、上記の徴兵・徴用により、戦地配備・戦闘労働させられたため、死亡した。

D 被告は、目録9の被相続人らに対し、何らの法的根拠なく、これを徴兵・徴用により、戦地配備・戦闘・労働させ、結果、死亡させたことにより、権利を侵害した。

E 目録9の被相続人らは、上記権利侵害により多大の精神的損害を受け、その損害を金銭に算定すれば、少なくとも別紙原告目録9記載の各人につき記載する金額を下回ることはない。

F 目録9の原告らは目録9の被相続人らを相続した。

G よって、請求の趣旨第4項記載のとおりの判決を求める。

7 傷害

A 本人たる原告ら

 @ 別紙原告目録10記載の原告ら(以下「目録10の原告ら」という。)は、被告の法令により、徴兵・徴用・戦地配備・戦闘・労働させられた。

 A しかし、上記の徴兵・徴用・戦地配備・戦闘・労働の根拠となった法令は無効である。

 B 目録10の原告らは、上記の徴兵・徴用により、戦地配備・戦闘・労働させられため、傷害を負った。

 C 被告は、目録10の原告らに対し、何らの法的根拠なく、これを徴兵・ 徴用により、戦地配備・戦闘・労働させ、結果、死亡させたことにより、 権利を侵害した。

 D 目録10の原告らは、上記権利侵害により多大の精神的損害を受け、その損害を金銭に算定すれば、少なくとも別紙原告目録10記載の各人につき記載する金額を下回ることはない。  

 E よって、請求の趣旨第4項記載のとおりの判決を求める。

B 相続人たる原告ら

 @ 目録10の原告らの別紙原告目録10記載の被相続人ら(以下「目録10の被相続人ら」という。)は、被告の法令により、徴兵・徴用・戦地配備・戦闘・労働させられた。  

 A しかし、上記の徴兵・徴用・戦地配備・戦闘・労働の根拠となった法令は無効である。

 B 目録10の被相続人らは、上記の徴兵・徴用により、戦地配備・戦闘・労働させられため、傷害を負った。

 C 被告は、目録10の被相続人らに対し、何らの法的根拠なく、これを徴兵・徴用により、戦地配備・戦闘・労働させ、結果、死亡させたことにより、権利を侵害した。

 D 目録10の被相続人らは、上記権利侵害により多大の精神的損害を受け、その損害を金銭に算定すれば、少なくとも別紙原告目録10記載の各人につき記載する金額を下回ることはない。  

 E 目録10の原告らは目録10の被相続人らを相続した。  

 F よって、請求の趣旨第4項記載のとおりの判決を求める。

 

第4 遺骨返還の契約責任等

A 死亡・死亡結果未通知・遺骨未返還

1 損害賠償その1(死亡)

A 別紙原告目録9の被相続人ら(以下目録9の被相続人らという)は、1938年から1945年にかけ、法令により強制されまたは事実上強制され被告の軍人または軍属となった。これにより、被告との間に雇用契約ないし雇用契約類似の契約が成立した。

B 目録9の被相続人らは、被告の指揮命令下において軍人・軍属として稼働中死亡した。

C 目録9の原告らは、上記軍人・軍属を相続した。

D 国又は使用者は、公務員又は労働者に対し、公務遂行又は労務提供のために設置する場所、施設若しくは器具等の設置管理または上司の指示の下にする公務の遂行若しくは労務の提供の過程において、公務員又は労働者の生命、身体等を保護するよう配慮すべき義務を負っている(最高裁第三小法廷昭和50年2月25日判決・最高裁第三小法廷昭和59年4月10日)。そして、上記のような安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであり、大日本帝国憲法の下における国と軍人・軍属との間でも妥当する。

 目録9の被相続人らが、軍人・軍属として稼働したのは1938年から1945年にかけてであり、被告は、別紙記載原告の被相続人らが業務の遂行に当たり、敵の攻撃等により目録9の被相続人らの生命、身体等に危険が及ぶ可能性を予測し得たのであるから、可能な限りこれを排除するに足る諸条件を整え、もって同人らにかかる危険が及ぶことにないよう配慮すべき義務を負っていたにもかかわらず、被告はこれを怠った。

E 目録9の被相続人らは、強制されまたは事実上強制され軍人軍属として稼働中死亡したことにより多大の精神的損害を被った。

F 目録9の被相続人らが侵害された利益を金銭に換算すると、金1000万円を下ることはない。

G よって、請求の趣旨4のとおりの判決を求める。

2 損害賠償その2(遺骨未返還等)

A 別紙原告目録2・3の被相続人ら(以下、目録2・3の被相続人らという)は、1938年から1945年にかけ、法令により強制されまたは事実上強制され被告の軍人、軍属となった。これにより、被告との間に雇用契約ないし雇用契約類似の契約が成立した。

B 目録2・3の被相続人らは、被告の指揮命令下において軍人・軍属として稼働中死亡した。

C 目録2・3の原告らは、上記軍人・軍属の遺族である。

D 被告は、目録2・3原告の被相続人らを徴用し、自らの管理下におき、国家意思の実現を図り国家活動の範囲を拡張したものであるから、安全配慮義務を負うと共にその過程において被徴用者らの生命が失われた場合、遺骨を収集し、死亡状況につき遺族に通知、説明すべき契約上の義務を負っている。被告はこれを怠った。

E 被告は、死亡後55年余が経過するにもかかわらず、目録2・3の原告らに対し遺骨を返還せず、死亡状況につきなんら通知、説明をしない。

F 目録2・3の原告らは、原告らの被相続人の遺骨が未返還であり、死亡状況も解らない事により多大の精神損害を受けた。

G 目録2・3の原告の被相続人らが侵害された利益を金銭に換算すると、金100万円を下ることはない。

H よって、請求の趣旨4のとおりの判決を求める。

3 遺骨返還・死亡状況説明請求

A 目録2・3の被相続人らは、1938年から1945年にかけ、法令により強制されまたは事実上強制され被告の軍人、軍属となった。これにより、被告との間に雇用契約ないし雇用契約類似の契約が成立した。

B 目録2・3の被相続人らは、被告の指揮命令下において軍人・軍属として稼働中死亡した。

C 目録2・3の原告らは、上記軍人・軍属の遺族である。

D 被告は、目録2・3の被相続人らを徴用し、自らの管理下におき、国家意思の実現を図り国家活動の範囲を拡張したものであるから、安全配慮義務を負うと共にその過程において被徴用者らの生命が失われた場合、遺骨を収集し、死亡状況につき遺族に通知、説明すべき契約上の義務を負っている。

E 被告は、死亡後55年余が経過するにもかかわらず、原告らに対し遺骨を返還せず、死亡状況につきなんら通知、説明をしない。

F よって、請求の趣旨2、3のとおりの判決を求める。

4 遺骨返還、死亡状況説明請求の補論(人格権及び物権的請求権)

A 人格権

@ 被告の前身たる日本帝国は、目録2・3の被相続人ら犠牲者を強制的に帝国軍人とし部隊に編入したうえ、軍隊秩序による完全な管理下のもと、戦争に従事せしめ、そして犠牲に遭わしめた(なお第二次大戦中、韓国本土においては一切戦闘行為は無く、爆撃も無かった。それゆえ、本件徴兵・徴用が無ければ、戦争による犠牲者の負傷・落命という事態は存在していなかったのである。)。

A このような日本帝国の地位からするならば、日本帝国ないし被告日本国は、目録2・3の被相続人らについては丁重にその遺骨を遺族たる目録2・3の原告らのもとに返還するとともに、その犠牲の経過について可及的に詳細に同原告ら遺族に報告する義務を負っていた者である。

  にもかかわらず、被告日本国においてこれらを長年に亘り懈怠してきたことは、目録2・3の被相続人ら自身の人格性の冒涜であるのみならず、目録2・3の原告らが固有する人格性への侵害行為でもある。

B ところで、人格権に関して前記した一般論(第3・C・1)からすれば、目録2・3の原告らは、当該侵害行為に相応するものとして、侵略した国家に対し、

 a 当該国家による徴兵・徴用の結果死亡した自らの親族等の遺骨の返還、及び

 b その死亡状況についての通知

を各々請求しうる被害民族としての人格権を有するものと言わねばならない。

B 物権的請求権

 (犠牲者の遺骨を物ということの当否は、今一応措いたとして)その遺族たる目録2・3の原告らは、遺骨を管理しているべき日本国に対して、物権的請求権として遺骨返還請求権を有している。

C 以上から、被告日本国は犠牲者の遺族たる目録2・3の原告らに対して、人格権及び物権的請求権に基づき、遺骨を返還し、死亡に関する一定情報を報告すべき義務を負っているのである。

B 傷害

1 本人たる原告ら

A 別紙原告目録10の原告ら(以下目録10の原告らという)は、1938年から1945年にかけ、法令により強制されまたは事実上強制され被告の軍人軍属となった。これにより、被告との間に雇用契約ないし雇用契約類似の契約が成立した。

B 目録9の原告らは、被告の指揮命令下において軍人・軍属として稼働中傷害を負った。

C 国又は使用者は、公務員又は労働者に対し、公務遂行又は労務提供のために設置する場所、施設若しくは器具等の設置管理または上司の指示の下にする公務の遂行若しくは労務の提供の過程において、公務員又は労働者の生命、身体等を保護するよう配慮すべき義務を負っている(最高裁第三小法廷昭和50年2月25日判決・最高裁第三小法廷昭和59年4月10日)。そして、右のような安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであり、大日本帝国憲法の下における国と軍人・軍属との間でも妥当する(東京高裁H10年7月13日判決参照)。

 目録10の原告らが、軍人・軍属として稼働したのは1938年から1945年にかけてであり、被告は、目録10の原告らが業務の遂行に当たる当該具体的状況の下において、敵の攻撃等により目録10の原告らの生命、身体等に危険が及ぶ可能性を予測し得たのであるから、可能な限りこれを排除するに足る諸条件を整え、もって同人らにかかる危険が及ぶことにないよう配慮すべき義務を負っていたにもかかわらず、被告はこれを怠った。

D 目録10の原告らは、強制されまたは事実上強制され軍人軍属として稼働中傷害を負ったことにより多大の精神的損害を被った。

E 目録10の原告らが侵害された利益を金銭に換算すると、金100万円を下ることはない。

F よって、請求の趣旨3のとおりの判決を求める。

2 相続人たる原告ら

A 別紙原告目録10の原告の被相続人ら(以下目録10の被相続人らという)は、1938年から1945年にかけ、法令により強制されまたは事実上強制され被告の軍人軍属となった。これにより、被告との間に雇用契約ないし雇用契約類似の契約が成立した。

B 目録10の被相続人らは、被告の指揮命令下において軍人・軍属として稼働中傷害を負った。

C 国又は使用者は、公務員又は労働者に対し、公務遂行又は労務提供のために設置する場所、施設若しくは器具等の設置管理または上司の指示の下にする公務の遂行若しくは労務の提供の過程において、公務員又は労働者の生命、身体等を保護するよう配慮すべき義務を負っている(最高裁第三小法廷昭和50年2月25日判決・最高裁第三小法廷昭和59年4月10日)。そして、右のような安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであり、大日本帝国憲法の下における国と軍人・軍属との間でも妥当する(東京高裁平成10年7月13日判決参照)。

  目録10の被相続人らが、軍人・軍属として稼働したのは1938年から1945年にかけてであり、被告は、目録10の被相続人らが業務の遂行に当たる当該具体的状況の下において、敵の攻撃等により別紙記載原告の被相続人らの生命、身体等に危険が及ぶ可能性を予測し得たのであるから、可能な限りこれを排除するに足る諸条件を整え、もって同人らにかかる危険が及ぶことにないよう配慮すべき義務を負っていたにもかかわらず、被告はこれを怠った。

D 目録10の被相続人らは、強制されまたは事実上強制され軍人軍属として稼働中傷害を負ったことにより多大の精神的損害を被った。

E 目録10の原告の被相続人が侵害された利益を金銭に換算すると、金100万円を下ることはない。

F 目録10の原告らは、目録10の被相続人らを相続した。

G よって、請求の趣旨3のとおりの判決を求める。

C 未払い金

1 未払いによる慰謝料(本人たる原告ら)

A 別紙原告目録11の原告ら(以下目録11の原告らという)は、1938年から1945年にかけ、法令により強制されまたは事実上強制され被告の軍人または軍属となった。これにより、被告との間に雇用契約ないし雇用契約類似の契約が成立した。

B 目録11の原告らは、被告の指揮命令下において軍人・軍属としての任務・役務に従事した。

C 目録11の原告らに対する給料の一部または全部が支払われていない。

D 上記債務不履行により原告らは多大の精神的損害を被った。

E 目録11の原告が侵害された利益を金銭に換算すると、金100万円を下ることはない。

F よって、請求の趣旨3のとおりの判決を求める。

2 未払いによる慰謝料(相続人たる原告ら)

A 給与未払いによる慰謝料

@ 別紙原告目録11の原告らの被相続人らは(以下目録11の原告らの被相続人らという)は、1938年から1945年にかけ、法令により強制されまたは事実上強制され被告の軍人または軍属となった。これにより、被告との間に雇用契約ないし雇用契約類似の契約が成立した。

A 目録11の原告らの被相続人らは、被告の指揮命令下において軍人・軍属としての任務・役務に従事した。

B 目録11の原告らの被相続人らに対する給料の一部または全部が支払われていない。

C 上記債務不履行により目録11の原告の被相続人らは多大の精神的損害を被った。

D 目録11の原告らは、上記軍人・軍属を相続した。

B 弔慰金未払いによる慰謝料

@ 別紙原告目録11の原告らの被相続人らは(以下目録11の原告らの被相続人らという)は、1938年から1945年にかけ、法令により強制されまたは事実上強制され被告の軍人または軍属となった。これにより、被告との間に雇用契約ないし雇用契約類似の契約が成立した。

A 別紙原告目録11の原告らの被相続人らは、軍人・軍属としての任務・役務遂行中に任務・役務に起因して死亡した。

B 被告は遺族である別紙原告目録11の原告らに対して弔慰金を支払うべき義務があるにもかかわらず、これを支払わない。

C 別紙原告目録11の原告らは上記債務不履行により多大の精神的損害を被った。

C 上記AC、BCにより目録11の原告が侵害された利益を金銭に換算すると、金100万円を下ることはない。

 よって、請求の趣旨3のとおりの判決を求める。

3 供託金額相当分返還

A 未払給与(本人たる原告ら)

@ 別紙原告目録11の原告ら(以下目録11の原告らという)は、1938年から1945年にかけ、法令により強制されまたは事実上強制され被告の軍人または軍属となった。これにより、被告との間に雇用契約ないし雇用契約類似の契約が成立した。

A 目録11の原告らは、被告の指揮命令下において軍人・軍属としての任務・役務に従事した。

B 目録11の原告らに対する給料の一部または全部が支払われていない。

B 未払給与(相続人たる原告ら)

@ 別紙原告目録11の原告らの被相続人らは(以下目録11の被相続人らという)は、1938年から1945年にかけ、法令により強制されまたは事実上強制され被告の軍人または軍属となった。これにより、被告との間に雇用契約ないし雇用契約類似の契約が成立した。

A 目録11の被相続人らは、被告の指揮命令下において軍人・軍属としての任務・役務に従事した。

B 目録11の被相続人らに対する給料の一部または全部が支払われていない。

C 目録11の原告らは、上記軍人・軍属を相続した。

C 弔慰金

@ 別紙原告目録11の被相続人らは(以下目録11の被相続人らという)は、1938年から1945年にかけ、法令により強制されまたは事実上強制され被告の軍人または軍属となった。これにより、被告との間に雇用契約ないし雇用契約類似の契約が成立した。

A 別紙原告目録11の被相続人らは、軍人・軍属としての任務・役務遂行中に任務・役務に起因して死亡した。

B 被告は遺族である別紙原告目録11の原告らに対して弔慰金を支払うべき義務があるにもかかわらず、これを支払わない。

D 上記AB,BB,CBの金額は、必ずしも明らかではないが、少なくとも別紙原告目録11記載の預託金相当額の未払い金がある。

 よって、請求の趣旨3のとおりの判決を求める。

D 軍事郵便貯金

1 本人たる原告ら

A 別紙原告目録12の原告ら(以下目録12の原告らという)は、1938年から1945年にかけ、法令により強制されまたは事実上強制され軍人・軍属としての任務・役務に従事した。

B 目録12の原告らは被告に対し1938年から1945年にかけ軍事郵便貯金規則(逓信省令第7号)に基づく軍事郵便貯金として別紙原告目録12記載の金額を預託した。

C 被告は、1945年9月22日付連合国最高司令官覚書に基づく勅令第578号、大蔵省令88号によりその払い戻しを全面的に停止したのであるから、預託契約に付随する契約上の義務として預託者である別紙原告目録12の原告らに、1954年軍事郵便貯金処理法(法律108号)により払い戻しの制限を撤廃した後は原告らにその旨通知すべきであるにもかかわらずこれを怠った。

D 上記債務不履行により原告らは多大の精神的損害を被った。

E 目録12の原告が侵害された利益を金銭に換算すると、金100万円を下ることはない。

F よって、請求の趣旨3のとおりの判決を求める。

2 相続人たる原告ら

A 別紙原告目録12の原告らの被相続人ら(以下、目録12の被相続人らという)は、1938年から1945年にかけ、法令により強制されまたは事実上強制され軍人・軍属としての任務・役務に従事した。

B 目録12の被相続人らは被告に対し1938年から1945年にかけ軍事郵便貯金規則(逓信省令第7号)に基づく軍事郵便貯金として別紙原告目録12記載の金員を預託した。

C 被告は、1945年9月22日付連合国最高司令官覚書に基づく勅令第578号、大蔵省令88号によりその払い戻しを全面的に停止したのであるから、預託契約に付随する契約上の義務として預託者である別紙原告目録12の原告らに、1954年軍事郵便貯金処理法(法律108号)により払い戻しの制限を撤廃した後は原告らにその旨通知すべきであるにもかかわらずこれを怠った。

D 上記債務不履行により目録12の被相続人らは多大の精神的損害を被った。

E 目録12の被相続人らが侵害された利益を金銭に換算すると、金100万円を下ることはない。

F 原告らは上記軍人軍属を相続した。

G よって、請求の趣旨3のとおりの判決を求める。

E BC級戦犯

1 本人たる原告ら

A 別紙原告目録13の原告ら(以下、目録13の原告らという)は、1938年から1945年にかけ、法令により強制されまたは事実上強制され被告の軍人軍属となった。これにより、被告との間に雇用契約ないし雇用契約類似の契約が成立した。

B 目録13の原告らは、被告の指揮命令下において軍人・軍属として稼働した。

C 目録13の原告らは、被告の指揮命令下において軍人・軍属として稼働中の行為につき連合国軍軍事法廷において戦犯裁判を受け有罪とされ服役した。

D 被告は、雇用契約ないし雇用契約類似の契約に付随する義務として、目録13の原告らが、戦争犯罪人として処罰されることのないよう配慮すべき義務を有するにも関わらず、これを怠った。

E 目録13の原告らが、戦犯裁判を受け有罪とされ服役したことはDの被告の故意、過失に起因する。

F 目録13の原告らは、戦犯裁判を受け有罪とされ服役したことにより多大の精神的損害を被った。

G 目録10の原告らが侵害された利益を金銭に換算すると、金100万円を下ることはない。

H よって、請求の趣旨3のとおりの判決を求める。

2 相続人たる原告ら

A 別紙原告目録13の原告らの被相続人ら(以下目録13の被相続人らという)は、1938年から1945年にかけ、法令により強制されまたは事実上強制され被告の軍人軍属となった。これにより、被告との間に雇用契約ないし雇用契約類似の契約が成立した。

B 目録13の被相続人らは、被告の指揮命令下において軍人・軍属として稼働した。

C 目録13の被相続人らは、被告の指揮命令下において軍人・軍属として稼働中の行為につき連合国軍軍事法廷において戦犯裁判を受け有罪とされ服役した。

D 被告は、雇用契約ないし雇用契約類似の契約に付随する義務として、目録13の被相続人らが、戦争犯罪人として処罰されることのないよう配慮すべき義務を有するにも関わらず、これを怠った。

E 目録13の被相続人らが、戦犯裁判を受け有罪とされ服役したことはDの被告の故意、過失に起因する。

F 目録13の被相続人らは、戦犯裁判を受け有罪とされ服役したことにより多大の精神的損害を被った。

G 目録13の被相続人らが侵害された利益を金銭に換算すると、金100万円を下ることはない。

H 目録13の原告らは目録13の被相続人らを相続した。

I よって、請求の趣旨3のとおりの判決を求める。

F シベリア抑留

1 別紙原告目録14の原告らの被相続人ら(以下、目録14の被相続人らという)は、1938年から1945年にかけ、法令により強制されまたは事実上強制され被告の軍人軍属となった。これにより、被告との間に雇用契約ないし雇用契約類似の契約が成立した。

2 目録14の被相続人らは、被告の指揮命令下において軍人・軍属として稼働した。

3 目録14の被相続人らは、第二次大戦後、旧ソ連軍によってシベリア等の収容所に捕虜として抑留され、劣悪な環境の下で過酷な強制労働に従事させられた。

4 被告は、雇用契約ないし雇用契約類似の契約に付随する義務として、別紙記載原告らが、捕虜として抑留されることのないよう配慮すべき義務を有するにも関わらず、これを怠った。

5 目録14の被相続人らが、戦犯裁判を受け有罪とされ服役したことはDの被告の故意、過失に起因する。

6 目録14の被相続人らは、シベリア等の収容所に捕虜として抑留され、劣悪な環境の下で過酷な強制労働に従事させられたことにより多大の精神的損害を被った。

7 目録14の被相続人らが侵害された利益を金銭に換算すると、金100万円を下ることはない。

8 目録14の原告らは目録14の被相続人らを相続した。

9 よって、請求の趣旨3のとおりの判決を求める。

 

第5 謝罪文の広告請求

1 韓国人軍人軍属についての諸処遇問題について、日本帝国・被告日本国がいかに酷薄であり、非人道的であったか、これについては上述したとおりである。

2 その各々の事実自体が直接に、原告の権利を侵害しているものであることは、もちろんである。しかし、内実はそれに止まるものではない。被告日本国が、日本帝国の行った戦争政策及びこれによる被害を率直に認めた上で、然るべき補償措置を講ずること、この当然のことが懈怠されているがために、原告らの人格権が侵害されているのである。本件犠牲者は、本来日本帝国の支配・戦争政策の被害者である。にもかかわらず、歴史的経過から必然的に日本帝国に対する批判の厳しい解放後韓国社会にあって、むしろ「日帝への協力者」として非難糾弾されるという、複雑で悲惨な境遇に置かれてきた。韓国社会において「日帝の協力者」の烙印の有する否定的意義は、逆の立場にある日本社会にあっては想像もできないほどのものがあるのである。

3 従って、このような権利について、単に金銭的賠償がなされることによっては問題の根本的解決には何らならない。

 問題の解決は、本件原告の名誉侵害が日本帝国主義の戦争政策による被害であることを、被告日本国が率直に認め、犠牲者に謝罪するという行為が客観的に存在してこそはじめて、被害者が被害者として社会的に認識認知され、そしてそのことによって、本来被害者であるはずの原告らの名誉が逆に害されるという不条理な事態に、究極的にピリオドを打つことが出来るのである。

 従って、本件にあっては民法723条の趣旨に拠って、請求の趣旨記載のとおりの謝罪広告を被告日本国になさしむることが、必要であり妥当である。

 

W 結語

  以上の各請求原因に基づき、原告らは本訴えに及んだ。

  時あたかも、歴史歪曲教科書は文科省によって検定合格となり、被告日本国の内閣総理大臣小泉純一郎は靖国神社への公式参拝を口にしている。このような事態をみるとき、日本国憲法の人権保障理念と平和主義が危殆に瀕していることを憂わざるを得ない。

  原告ら代理人らは、本件訴訟を通じ、永く侵されてきた隣国の人々の人権が救済され、日本国憲法の貴い理念が蘇生することを切に希望する。

以上


< 別 紙 > 謝罪文

 年  月  日

大韓民国

太平洋戦争韓国人犠牲者遺族会

太平洋戦争被害者補償推進協議会

                      御中

                                      日本

内閣総理大臣 小泉純一郎

謝        罪       文

 我が日本国は、日本帝国時代である1910年にあなた方の故国を併合し、以降36年間に亘って植民地支配を行い、あなた方及び貴国人民に多大の苦痛と損害を惹起しました。また第二次大戦に際しては貴国人民を徴兵・徴用し、強制的に死地に赴かしめ、甚だしい危険と恐怖にさらしたうえ、多くの方々の尊い命を失わしめました、更にまた、強制労働により多大の苦痛を与えました。これらについて、日本国は改めて衷心より御詫び申上げます。

 しかも、これら支配と強制による犠牲者について、死亡の事実のお知らせすら十分にはなされておらず、御遺骨の返還も行われておりません。更には、必要な各種補償はもとより、そもそも賃金等の支払すら、現在に至るまで怠ってきたことは、説明の致しようもない我が国の怠慢であり不道義と言うほか無く、深く反省し謝罪致します。しかるに他方、本来日本帝国の戦争政策の被害者である犠牲者を、「日本のために命を捧げた英霊」として、一方的に靖国神社に合祀してきたことは、歴史的経過、犠牲者および遺族の方々の民族的心情を無視したものであり、関係各位に与えた精神的苦痛について、深甚なる謝罪の意を表します。

 今般、東京地方裁判所から、これらについて謝罪・絶止措置・未払金支払等を命ずる判決を受けるに至ったことについては、真摯にこれを受け止め、速やかに解決のための有効な措置を講じます。

 その上で今後我が国は、憲法に明記されたところに従い、貴国を始めとする各国の皆様との国際的信義と友誼を重んじ、更に友好親善に努めることを誓約します。


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