2018年2月8日

「第4回韓国人戦没者遺骨返還についての厚労省との意見交換会」を開催(古川)



  2月8日、参議院会館で国会議員を交えて「第4回韓国人戦没者遺骨返還についての厚労省との意見交換会」を開催した。今回、最大の焦点は厚労省が「安定同位体比による判定」を認めるか否かにあった。「安定同位体比判定」とは、遺骨の中にある元素を調査することによって、その出身地域を特定する方法で、既にアメリカ(米軍DPAA)や韓国(国防部遺骸発掘鑑識団)が採用していることを突き止めた。そして歯科医向けの雑誌に防衛医科大学染田先生の「歯は生まれ故郷の記憶を刻んだタイムカプセル〜歯の元素分析による戦没者遺骨の日・米・現地住民の分別の試み〜」(「歯界展望」2017.4)という文章を発見した。以下引用する。
 「先の大戦の戦没者の遺骨収集は、終戦以降、厚生労働省やNPO、NGO団体などによって長年行われてきました。しかしながら、現在一部地域では、遺骨収集現場における日本兵、米兵、及び地元住民の3者の遺骨の混同が大きな社会問題、外交問題となっており、事業推進の大きな障害となっています。このため、収集された遺骨についてこの3者を分別する方法の確立が急務となっています。」「これまで私たちは、出身地域別にみた人体硬組織中の元素の特徴(濃度や安定同位体比)についての検討を行ってきました。環境中の酸素、炭素、窒素、硫黄、鉛、ストロンチウムといった元素の特徴は、気候、土壌や地理的条件の特徴を反映して地域別に多様な分布を示すことが知られています。これに、土地土地の食習慣の違いが加わることで、そこに住むヒトの体内における元素の特徴には、さらに多様なバリエーションが加わることになります。」「これらの方法を実際に沖縄県で収容された戦没者遺骨のうち、所持品から米兵の蓋然性のあるものに適用したところ、米兵である可能性がきわめて高いとの判定結果が得られました(琉球大学医学部人体解剖学講座との共同研究)。この結果は、米軍戦没者遺骨鑑定機関(DPAA)に連絡され、平成28年10月にDPAAに引き渡しがなされました。」
 なんと、「安定同位体比判定」を用いて、既に遺骨をアメリカに引き渡しているのだ。

                 参照染田先生のサイト http://www.geocities.jp/ego_isotope/page402

 

要望書を提出 意見交換会 議員から鋭い質問

厚労省が安定同位体比による国籍判別の有効性を認めた

 厚労省との意見交換会は、相原久美子参議院議員の紹介により行われ、韓国からは太平洋戦争被害者補償推進協議会チーム長の金英丸(キム・ヨンファン)さんが参加した。相原議員のほか、森本真治(民進)、伊波洋一(沖縄)、福島みずほ(社民)議員と5議員秘書が参加。多くの日韓マスコミをはじめ一般市民も参加した。
 会議は冒頭、要請書提出の後、厚労省援護課の吉田課長から回答が行われた。
 「安定同位体比を用いて遺骨の国籍や出身地域を特定する方法は前例がない」との回答を受けて議員から質問が飛ぶ。

(議員)「政府が関わらず民間がやったということか?国は関与していないのか?今度の予算で安定同位体比の研究費がついたということだが具体的にどのようなものか?」
(厚労省)「今回の法律で国の責務が明記されており、国は関与するが、沖縄の場合日常の造成工事の中でも遺骨が発掘されるため沖縄県に保管、管理を委託している。大規模な掘削を伴うものは国が関与している。」
(議)「県に委託する中で安定同位体比での判定を琉球大学に委託したということか?」
(厚)「そう。県に委託している骨で、鑑定を実施している中でどうも米兵と思われる遺骨が発見され、染田先生が安定同位体比分析を用いて米国にお返ししたということ。」
(議)「手法は厚労省として認めているのですね。」
(厚)「私どもは否定しているわけではなく、今回は染田先生のご厚意によってやっていただいたと承知している。その結果間違いのないものとして引き取られたと認識している。」
(議)「否定していないということは、手法での実績があるのだから今後やっていくということでいいですね。それと来年の予算の話。」
(厚)「今回、安定同位体比で予算が500万円ついている。フィリピン現地遺骨混入の件で安定同位体の判定を行うための予算措置です。」

・・・以上のとおり、回りくどい言い方ではあったが、厚労省として安定同位体比の有効性を認め、現にアメリカに遺骨を渡したことや、今後の実施に向けた予算化を認めた。これは大きな変化である。今後、韓国政府からの要請があれば、日本政府として応じざるを得ないからだ。遺骨が韓国に帰れば、韓国には国防部遺骸発掘鑑識団という専門チームで遺族との詳細なDNA鑑定が可能だからだ。また会議で厚労省は、在日韓国人のDNA鑑定申請について、韓国政府の具体的提案があれば検討すると明言した。
 今後、さらに安定同位体比やDNA鑑定研究者からの情報を得ながら「遺骨を家族・故郷の元へ」の運動を継続したい。