2016年12月19日

ようやく韓国国会での動きに展望!(訪韓報告 古川)


韓国国会議員会館で開催の「遺骨に関する国際会議」に参加
 
 12月19日、韓国国会議員会館で開催された「旧日本軍韓国人戦没者遺骨調査と奉還に関する国際会議」に参加しました。「戦没者遺骨収集推進法」の国会議論で塩崎大臣による「韓国政府から具体的な提案があれば真摯に受け止め政府部内で適切な対応を検討する」という答弁がありながら、沖縄戦遺骨のDNA鑑定が遺族に呼びかけられている現状においても、韓国人遺族を対象にする動きが両政府間で見られないことから、今回の集会が開催されました。日本から沖縄戦遺骨収集ボランティア・ガマフヤーの具志堅隆松さんが招かれました。

議員会館 国際会議の模様 2人の議員と李煕子さん

 まず主催者であるカン・チャンイル国会議員が「戦後73年が経とうとしているのに解決できていない問題がある。アメリカは遺骨一つでも探し出すために平壌まで行っているのに日本では見つけられない。国家は国民の人権を守らなければならないといけない。次期大統領選挙が大切」と挨拶。続いて太平洋戦争被害者補償推進協議会のイ・ヒジャ代表が「今回は議論する場として開催し、次回は日本の国会議員に来ていただいて遺骨返還を実現したい」と決意表明。集会参加のカン・チャンイル議員とソ・ビョンフン議員が今後遺骨の話を引き受けてくれるようです。
 
  報告する具志堅さん
 
  打ち上げでヒジャさんと具志堅さん
 集会ではまず具志堅さんのドキュメンタリー「ガマフヤー・遺骨を家族に・沖縄戦を掘る」を上映。沖縄で発掘される遺骸と具志堅さんの活動が描かれている。中でも田畑一夫さん(10月国会内集会に参加)のお父さんの遺骨がDNA鑑定の結果、家族の元へ帰り、お墓の前で遺族が骨壺をさすりながら「帰ってこれてよかったね」と嗚咽するシーンでは、参加遺族の目にも涙があふれている。その後、具志堅さんが写真を見せながら、沖縄での遺骨発掘の実態と問題点について講演しました。
 続いて上田さんが、推進法成立過程の国会行動を通じた成果と厚労省の行っているDNA鑑定の問題点について報告。現在厚労省が行っている方針では、頭蓋骨がなければ個体性なしと判断され、手足の骨が残っていてもDNA鑑定の対象にならずに焼骨されてしまうことや、沖縄で遺族とのDNA照合呼びかけが始まっているが、そもそも朝鮮半島からの動員者は「行方不明」が多く、韓国政府からすべての遺族が照合対象であること、何よりも焼骨をやめさせることを強く主張すべきであることなどを報告しました。
 私は15年3月ニューギニア遺骨調査の写真を映しながら、現地の人が畑を耕せば遺骸が発掘される状況を報告。韓国人遺骨返還の突破口としてクエゼリンなど小さな島での発掘遺骸とのDNA照合が鍵になることを説明。保田さんが沖縄戦に動員された朝鮮人の部隊が今回の鑑定対象地域に含まれている可能性を詳しく解説しました。
 会議には、韓国の行政自治部のヤン・イモ課長も参加。これまでの返還遺骨の成果を誇張する一方、日本側から「韓国人の遺骨が発見されれば対応する」方針だけしか持っておらず、「DNA照合しなければ韓国人だとわからない」という問題意識がないことがよくわかりました。会場から課長に対する質問や批判が飛び交っても、のらりくらりと答弁してその場を切り抜けました。唯一よい話しとして、「DNA検査対象遺族の検体採取費用として、8000万ウォン(約800万円)の予算を確保し、不足があれば他からの流用を考えている」ことが確認できました。
 集会には沖縄戦遺族の米本さんも参加、「一番近い皆さんとの対話を怠ってきた日本が恥ずかしい。希望を失わずチャンスをつかみましょう」と発言。最後に具志堅さんから「沖縄県議会への要請を粘り強く行ってきたことが成果につながっている。間違っていないからあきらめないことが大事」と韓国遺族へエールを送りました。
 カン・チャンイル議員は「日本の右翼的政治状況の中、感動した」と話されたそうです。集会内容は、さっそく聯合ニュースが写真付きで配信。大統領選出後、日本政府との協議に向け、問題意識を韓国国会内に植え付ける集会になりました。
 
予期せぬ韓国国防部でのDNA鑑定に関する交流で大きな成果

 国会内集会の翌日、素晴らしい展開が待ち受けていました。
 日本では推進法施行後も、DNA鑑定のハードルが高いですが、私たちは韓国での朝鮮戦争犠牲者の遺骨を家族の元へ返すための取り組みが参考になると確信していました。5月19日参院厚労委員会で川田龍平議員の「四肢骨からのDNA鑑定で実績のある米韓両国と、歯でこれまでやってきた日本とで技術交流を行うべきではないか」との質問に、堀江政府参考人が「米国や韓国の取組等につきまして情報収集等を行う」と答弁しています。そしてこの日、チャン・ワニク弁護士に立ち会っていただき、韓国国立墓地内にある韓国国防部中央鑑識所へ突然訪問しました。

鑑識団の建物 質疑に答えていただく 記念撮影

 まず1階のレクチャールームに通され、広報のカン・イル将校から全体概要説明用のDVD映像を交え説明を受けました。韓国国防部遺骸発掘鑑識団は2009年に中央鑑識所を設置し、朝鮮戦争戦没者の発掘・鑑定事業を行っているとのこと。その後、私たちに対応していただいたのがチャン・ユラン所長。民間人で法医人類学博士の所長から直接話を伺うことができた。以下はそのやりとり。

Q:日本で問題になっているのは厚労省が頭蓋骨がないと1人の個体性と認めないこと。手、足だけなら焼いてしまい遺族に返さないという考えですが、韓国はどうでしょう?
A:韓国だけでなく世界的にDNA検査の中心は大腿骨。大腿骨の次は脛骨。歯は順番では後の方です。これは韓国だけではなく全世界的にです。韓国では頭蓋骨が出なくても四肢骨を検査し一人として個体性を認めます。右足1本だけでも、1人として認めます。あんまり小さすぎて、DNAが取れない場合は仕方ないですが。

Q:歯のない遺骨、頭蓋骨のない遺骨は厚労省の指示で現地で焼いています。火葬についてはどうなっていますか?
A:身元が確認されるまでは火葬はしません。身元確認できない遺骨はそのまま保管します。

Q:大腿骨からDNA抽出できる確率は?
A:埋葬環境に違いはありますが朝鮮戦争の場合、ほとんど出ます。90%以上は出ます。

Q:DNA検査は15ローカス(部位)で検査するのですか?
A:23ローカスです。15は国際基準ですが、技術が発達しているので23です。

Q:遺骨とDNA照合の時に死んだ地域で対象を絞りますか?
A:朝鮮戦争は突然行ったので、どこで死んだとか記録が無い人が多いし、避難民もいたので、地域で区分はできません。すべて一緒に照合します。


 
  広報ポスターの前で
 これまで厚労省が行ってきた方針が、いかに根拠の薄っぺらいものかが、この短時間の交流で見事に暴かれました。
 訪韓から帰国した週の24日、共同通信は「日米で戦没者遺骨収集・来年度から科学調査で協力」の見出しで「今年10月には、旧ソ連による抑留犠牲者の遺骨収集作業中に、DNA鑑定の検体として採取した61柱分の歯を誤って焼却したとされる問題も起きた。政権内からは「本腰を入れて対応しないとまずい」(与党筋)との声が漏れる。米側の取り組みは進んでいる。国防総省は専門機関として「戦争捕虜・戦中行方不明者捜索統合司令部」(DPAA)を置く。米兵の遺骨を発掘して持ち帰り、鑑定し、遺族の元へ引き渡す任務を担う。歯を伴わない遺骨のDNA鑑定も行っている」と報じました。
 明らかに私たちの問題提起が「骨は焼いてすべて千鳥ヶ淵へ(魂は靖国へ)」という戦後一貫して行ってきた「安上がりな戦後処理」の根幹に変化を与えつつあります。
 今後も韓国人遺族への遺骨返還に門戸を開かせるためにご支援をお願いします。

「戦没者遺骨を家族の元へ」連絡会のHPができました。
http://kazokunomotoe.webnode.jp/