2016年3月
「戦没者の遺骨収集の推進に関する法律案」成立!
遺骨問題は「個人の尊厳を回復する」闘い
残念ながら今回成立した「戦没者遺骨収集推進法」は基本部分で韓国人を視野に入れない不十分なものです。しかし塩崎厚生労働大臣の発言にあるとおり、今後韓国政府を動かすことができれば展望は切り開かれます。 以下、法律成立過程での私たちの取り組みと今後の展望について報告します。 韓国から見た「戦没者遺骨収集推進法」成立過程とこれから(上田)
韓国の世論は、どう動いたでしょうか。ハンギョレに続き、聨合ニュースは、「法律は収拾対象遺骨を'我が国(日本)戦没者'のことで限定することによって日帝強制占領期間に日本軍や軍属(軍務員)で動員されて戦死した朝鮮人犠牲者は適用対象で排除された」と法律の基本構造を徹底批判しつつも、塩崎大臣の発言については、ここを突いて遺族の希望を実現していくしかないとの論調で、韓国政府に積極的対応を促しています。韓国各新聞・ネットニュースは遺族からの韓国政府への具体的提案を求める声を繰り返し報道しています。太平洋戦争犠牲者補償推進協議会は、すでに政府との交渉を行い、国会議員選挙後の国会の人事配置が決まる6月に、外交通商部に新しく配属される国会議員とともに、政府交渉を進める準備を進めています。すでに韓国政府もまた、韓国人遺族の遺伝子銀行の設立に向けた予算計上を公表するなど、日本政府への対応策を取り始めています。 李煕子(イ・ヒジャ)さんが3月16日、国会でのDNA学習会・第5次国会議員ロビー行動のため来日した時、着くなり「なんで塩崎発言について日本政府が韓国にその内容を伝えないのか?」と、私に怒っていました。遺骨問題の展望は出てきたものの、日本政府から言ってこないのはけしからんということです。「大臣が国会で言ったことは、取り消せない。国際的に見て、韓国に言ったのも同じ。」と言うしかありませんでした。しかし、2日間、国会で一緒に動く中で、ヒジャさんは具志堅さんに「具志堅さんの何十年の努力が花開く時が来た」と話していました。そして最後に「沖縄の県民の鑑定ができるように頑張って」と、私たちに言い帰国しました。法律ができて日本人にはしっかり対応すると思っていたのに、今のままでは厚労省は日本人にもちゃんとしない。そんな厚労省と闘っている私たちの姿を目にして出た言葉です。「日本人にしないのに韓国人にするわけがない。まずしっかり遺骨収容の法律を日本で作って」。ずっとヒジャさんが、私たちに言ってきたことです。さっそくヒジャさんは、韓国に帰り「“日本は歯から検体を採るため、歯がない遺骨は火葬すると聞いている。韓国政府の対応が遅れ、火葬されてしまえば遺骨返還が不可能になる”と懸念を示した」(聨合ニュース)とマスコミに発言し、連係した動きを作り出していただいています。 スタートの沖縄で「四肢骨」からのDNA鑑定実現を!
3月29日、厚労省が沖縄方針を発表しました。私たちは、3月22日の塩崎発言以降この発表までに塩崎大臣に、重要な資料を提示しました。1つは朝鮮戦争犠牲者の遺骸発掘調査を行っている韓国国防部遺骸鑑識団が四肢骨を中心に鑑定している写真です。続いてもう1つがソウル大学大学院の博士論文です。この論文は鑑識団の活動を分析している2007年の論文ですが、朝鮮戦争犠牲者の鑑定事業で、歯よりも四肢骨のほうが、DNA抽出がよりできており、実際、歯よりも四肢骨から鑑定しているという論文です。これを翻訳し、川田議員を通じて塩崎大臣に渡しました。その結果、塩崎大臣から四肢骨について鑑定の対象となるか検討をするよう指示されたことを、厚労省は川田事務所に明らかにしました。
私たちが、求めていた遺骨検体・呼びかける遺族数・部隊名(部隊名は後日、参議院厚労委員・森本しんじ事務所が追及し公開された)の情報公開がされました。特に遺族の実質的なデータベース化方針が初めて示されました。3月22日の国会質疑からわずかな期間でしたが、沖縄方針発表にも大きな圧力をかけました。第5次ロビー活動で要請した沖縄出身国会議員もぎりぎりまで厚労省を呼びつけたり、質問書を出したりしました。具志堅さん、沖縄の国会議員のみなさん、川田龍平事務所、森本しんじ事務所、ぐんぐんの仲間が一致団結し厚労省沖縄方針発表に短期間に大きな圧力をかけてきました。 さて、次の国会論戦では、四肢骨の鑑定を認めさせることが課題になります。この闘いは、残る通常国会、秋の臨時国会、おそらく来年の通常国会にかかる1年がかりの長い闘いになります。600件の遺骨に含まれる韓国人の父の遺骨を焼かせてしまうわけにはいきません。「日本人遺族と連帯し、韓国人遺族の問題を解決する」。私たちのこの方針は、両国の遺族の目線から問題を提起し、思いを伝え、党派を超える国会議員の理解と行動を得てきました。それは政府の説得にもつながっています。沖縄の600体の遺骨(四肢骨)を鑑定に入れることは、一片の遺骨でも返してほしいという遺族の要求そのものです。70年の沖縄県民遺族の思いを声に出すために、6月沖縄県議会再決議の実現を具志堅さんと相談しています。6月に韓国で、新国会議員とともに外交通商委員会を通じた韓国政府に対する要請が本格的に始まります。沖縄戦でなくなった韓国人軍人・軍属の多くが行方不明扱いとなっており、このことも課題として浮上してくるでしょう。 私たちは、2月3月にこの大きな山の5合目に一挙に到達しました。衆議院厚労委員会での法案通過時まったく、なすすべもなかった私たちが、参議院厚労委員会で大きな議論と展望を作り出しました。6合目7合目の課題は見えてきました。沖縄県民と連帯しこの山を登っていくこと、そして韓国政府に日本政府への具体的要求を行わせること、この2つを日本と韓国で進めていきましょう。 3・16「DNA鑑定に関する国会内学習会」を開催(古川) 3月16日、ノー!ハプサ(合祀)の口頭弁論後に、参議院会館で「戦没者遺骨DNA鑑定に関する国会内学習会」を開催しました。 「ガマフヤー」代表の具志堅隆松さんが沖縄での遺骨収集の現状について報告。次に「文系でもわかるDNA鑑定」と題してこの問題について協力を申し出ている「NPO遺伝子情報解析センター」の研究員から、DNA鑑定のしくみや日進月歩の科学技術の発展などを学びました。方法次第で鑑定の精度を上げることが十分可能であることや、厚労省が「地名、部隊名」が判明している人に限定したり、「歯」に限って鑑定を行うなどと、恣意的な基準を設けてきたことの不合理性が明らかになりました。 集会には川田龍平議員をはじめ2人の議員、5人の議員秘書も参加。川田議員からは「戦争によって奪われた遺族の時間を取り戻すためにも最善を尽くしたい」と厚労委に向けての決意が述べられました。 最後に、韓国から参加されたノーハプサ原告鄭鎮福(チョン・ジンボク)さんのお父さんの戦死地クェゼリン島からは、昨年15体の遺骸が収容されており、その中に鄭鎮福さんのお父さんの遺骸が含まれる可能性が十分考えられることを全体で確認しました。
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