2016年2月14日

「戦没者の遺骨収集の推進に関する法律案」
   
     いよいよ参議院で審議開始! (上田)


4次にわたる国会議員要請行動

 
  民主党森本議員と
 
  共産党小池議員と
 韓国人遺骨問題の解決に向け、「戦没者の遺骨収集の推進に関する法律案」は、2月18日にも審議が厚労委員会で開始される情報が入ってきています。このぐんぐんニュースが皆さんに届いている頃はすでに法案は参議院で可決されているかも知れません。
 私たちは、8月以降、4次に渡る国会議員要請行動を行ってきました。詳細にはふれませんが、我々が要請した議員は、与野党の6つの政党に及びます。残念なことに5月12日の参議院厚労委員会で、DNA鑑定の展望を切り開いていただいた白真勲議員は厚労委員会を交代となりましたが、今後も日韓議員連盟を中心に活動していただけることになりました。 
 4次に渡る要請行動の中で、ある議員事務所は、本気で厚労省と向き合い、厚労委員会での審議に向け、韓国人遺族のために厚労省と折衝を重ねていただきました。ある議員事務所は、私たちが訪問すると厚労省の遺骨担当の部署にその場で直接電話をかけ、私たちがなかなかわからない、厚労省の考えを引き出していただきました。このことは、反論を作り上げる大きな力になりました。また、ある議員事務所からは、国会での審議の駆け引きについて「負けないための方法」を伝授していただきました。この行動には、沖縄のガマフヤー(ガマを掘る人)の具志堅隆松代表も2度にわたり参加いただき、沖縄戦の遺族と韓国の遺族の問題を重ねて、国会議員に要請し、幅広い支援が得られました。
 法案は参議院を通過するのは間違いありませんが、衆議院では行われなかった、希望する遺族にDNA鑑定を呼びかけるべきであるという議論や、韓国人遺族の問題を真正面から取り上げた議論が行われることを期待するしかありません。塩崎厚労大臣と厚労省はこれらを否定したり、あやふやなことを言って逃げ切っているかもしれません。
 
国会議員要請行動での運動の成果とDNA鑑定専門家との出会い

 
具志堅さんと山田さん(右)  
 しかし、どのような結果になろうと、この過程で、ぐんぐん裁判支援する会が得たことが、2つあります。一つ目は、国会議員ロビー活動などしたこともなかった私たちが各党の厚労委員会の中心的議員に、堂々と要請・調整できる力を得たことです。戦後70年、何としても実現したい沖縄戦や韓国の遺族の思いを背負って、しっかりと政治の壁に体当りし、確実によじ登った経験は大きな財産です。2つ目は遺族のためのDNA鑑定の拡大という目標に向かい、その科学的・経験的根拠を得る協力者が現れたことです。政府の諮問機関DNA検討会は著名な学者で構成されていますが、厚労省はかん口令を引き、「マスコミや市民団体に情報を漏らさないように」と何度も会議で言っていることは、その委員から直接聞いた事実です。このように政府や警察はDNA鑑定の情報を独占し、運用しているという問題があります。しかしそのDNA鑑定で民間のNPOから私たちへの支援を表明していただきました。裏話的な話ですが研究所の所長さん(山田さん)が博多の屋台で飲んでいると、具志堅さんがNHKラジオに出ていて、屋台から電話して連絡先を聞き、協力したいと申し入れたそうです。文化系の集まりのような我々に、「天の助け」と言える協力者ができました。
 
 
  議員秘書にDNAについて説明
法案通過後は「基本計画」策定での議論へ
 
 法案の審議経過がどのようになろうと、私たちの方針は明確です。この法律は第5条で政府は、基本計画を策定しなければならないとしています。そして、その案は厚労大臣が作成し政府に提出することになっています。私たちは参議院厚労委員会の議員の中にこの問題を浸透させてきました。その結果は審議で明らかになるでしょう。今度は衆議院の厚労委員会へも同じように行動を拡大し、両国会の厚労委員会に、大きな支持の流れをつくりだすことです。収容した遺骨に旧日本兵である韓国人の遺骨が含まれていることは否定しがたい事実です。その事実をもとに、韓国政府と日本政府を動かすべく日韓議員連盟の決議の実行に向けて両国議員への要請を強めるのみです。法案は、遺骨を遺族に返すことを求めています。
 
クエゼリン遺族を先頭に「遺骨を韓国の家族の元へ」の運動を!
 
 
  クエゼリン
 私たちは、おそらく法案通過後の3月に、大きな闘いを準備しています。昨年の第2回厚労省交渉で、クエゼリン島の遺骨流出について15体の遺骨が出て8件のDNA鑑定できる検体が出たことが明らかになりました。3月17日、クエゼリンの韓国人遺族が第3回の厚労省遺骨交渉を行います。主要な議題は、沖縄戦の遺族へのDNA鑑定がどのように進んでいるかとクエゼリンの韓国人遺族の鑑定への参加を求める交渉になります。法案通過後のタイミングで、厚労省に基本計画の中に入れろと強い要求を行います。また前日の16日3時40分からは「戦後70年、遺骨を遺族に返すためのDNA鑑定国会議員・市民学習会(仮称)」を参議院会館で実施します。講師は先ほど紹介した、NPO遺伝子情報解析センターにお願いします。「文系でもわかるDNA鑑定」と称した学習会ですので、安心して参加してください。この学習会も、私たちが参議院から衆議院へも運動を拡大していく第1歩の取り組みになると思います。また韓国でも遺族の声を政府に伝えるべく、記者会見・政府への要請行動が3月に計画されています。

「文系でもわかるDNA鑑定」

 ここで、少し私たちがレクチャーを受けたDNA鑑定の話をします。「すべての希望する遺族にDNA鑑定を呼びかけて」という要求に、厚労省が拒否する理由は次のとおりです。「沖縄戦で20万人がなくなったとして、1つの遺骨が出てきたら、それに該当する可能性のある人は20万人いる。DNA鑑定しても、99.99パーセント合致する確率しか出ないので、1万人いるなら1人しか合致する人はいないけれど、20人が合致することになる。だから、99.99%の確率で親子が合致しても違う人の場合がある。だから、軍の資料で部隊を絞れば、例えば1万人から5千ぐらいしかこのあたりで死んだ可能性はないというのであれば、確率論的にクリアーできる」というものです。
 頭が痛くなりますね。しかし、沖縄戦で、DNA鑑定で遺骨を遺族に返した4例の内、2013年に浦添市前田小学校前で田端耕三さんの遺骨が見つかりました。遺骨のそばに印鑑があり、DNA鑑定をしてご遺族の田端一夫さんに69年を経て遺骨が返還されました。しかし遺族に届いていた死亡通知には「昭和20年5月29日沖縄本島山川の戦闘において戦死」と別の市で戦死となっていました。部隊は次々と再編され,軍の戦死記録はでさえも死亡場所を特定できないほどの過酷な実情にあったと言えます。まして、一般の県民の死亡場所の情報などほとんど無いのです。沖縄戦の過酷な状況や、今後のDNA鑑定の技術の発達、そして遺族の高齢化を考えたときに、希望する遺族から検体をとりデータベース化しておくことに、どうして厚労省は反対するのでしょうか。また、研究所のレクチャーでは現在の技術はDNAの基本的技術である @STR法 に加え、AY染色体検査、Bミトコンドリア検査 を追加で行い、飛躍的高い確率で家族であることを確認できるということを学びました。(別添資料をお読みください。)このようにできることを全てやって、そこに軍の資料をより確実なものとするために補足すればいいのではないでしょうか。軍の資料そのものも確実なものでないことは、専門家の厚労省も知っているのです。

 最後に、このような大きい課題。大きな山の4合目・5号目を私たちがしっかり登りきれているのかどうかは、法案審議の結果を見なければわかりません。しかし私たちの、韓国遺族とともに取り組みが、沖縄戦遺族のために40年に渡り取り組んできた具志堅さんと繋がり、2つの運動の力が、政治家や研究者とも繋がり始めました。
今後ともご支援をよろしくお願いします。(2/14)
 
今も発掘される遺骨