2015年6月22日

「遺骨を家族のもとへ」
全ての希望する遺族のDNA照合に向け
昨年に引き続き

国会議員参加による厚労省ヒアリングを開催(上田)


 
厚労省交渉  
 
李煕子(イ・ヒジャ)さん  
 6月22日遺骨問題の厚労省ヒアリングを行った。昨年6月23日に行った厚労省交渉に続き2回めである。終了後、李煕子(イ・ヒジャ)さんに今日の評価を聞くと「30点」という。低いと感じるかも知れないが、昨年の交渉の李煕子さんの評価は「0点」。昨年誰も登ったことのない大きな山に登ろうとし、登山口さえ見つからなかったのに比べ、入り口を見つけ3合目(30点)まで登って来たということ。これは、沖縄での具志堅さんのDNA鑑定を求める闘い、塩川さんの日弁連意見書・法制定を求める運動、岩手・岩渕さんの「遺骨収容事業は終わった。」という厚労省のでたらめを許さなかったニューギニアでの取り組み、そして韓国人の遺骨を家族に返す私たちの取り組みすべてが結びつき、作り出した到達点といえる。
 5月12日、参議院厚生労働委員会で、昨年の厚労省交渉に参加いただいた、白眞勲議員が戦没者遺骨問題について質疑を行い、「遺骸の横に名前のわかる遺品が無くても、可能性のある部隊の遺族のDNA鑑定を求める」「遺骨のデータベース化を進める」という厚労大臣の答弁を引き出した。また希望するすべての遺族からDNAをデータベースし、遺骨・遺族両方向からの照合を行うという提案が厚労大臣に行われた。翌13日には、菅官房長官が「遺品が無くてもご遺族にDNA鑑定を呼びかけ、気持ちにこたえるのは政府の役割」と実施条件の緩和を表明するに至った。
 今回はこの転換点にあたり、要望書を太平洋戦争被害者補償推進協議会が提出し、相原久美子議員を紹介議員とし、神本美恵子議員、白眞勲議員も参加し、厚労省援護局事業課事業推進室吉田室長を相手としたヒアリングを行った。

 要求は、
@ 新聞報道されていない遺骨のDNA検体採取の場所と個体数を明らかにすること。
A シベリアでの韓国人遺骨はどうなっているのか。
B 昨年から要請しているクエゼリン島の海岸への遺骨流出問題調査結果の報告
C 厚労大臣のDNA鑑定の緩和発言をうけての取り扱いを示すこと。緩和された実施条件に合う場合韓国政府と協議すること。すべての希望する遺族からDNA情報を取ること
である。

 昨年に続き、この問題の解決を李煕子さんから付託を受けた沖縄戦遺族であるNPO法人戦没者追悼と平和の会・塩川正隆理事長も交渉をリード。この日は沖縄のどこで死んだかわからないお父様の命日。遺骨を探すため、塩川さん自身のDNA検体も受け取るように厚労省にその思いをぶつけられた。

要望書を提出 塩川さん

「部隊資料で韓国人の可能性があれば韓国政府と協議すること」を追及

 まず、厚労委員会での厚労大臣の発言について、吉田室長は次のとおり答えた。

(吉田室長)
「読売新聞で報道のあった件ですが、白議員からの国会での要望を踏まえ、大臣が新たな取り扱いに関して表明したところです。
(1)固体性のある遺骨については、DNAの抽出が可能であれば全てデータ化を行う。
(2)ロシア・モンゴル抑留地域以外の収容遺骨は、これまで遺留品等があることが条件でしたが、今後は部隊記録等の資料から可能性のある遺族へ呼びかけを行い、DNA照合を行う方向で検討中であります」


 
 
  厚労省吉田室長
 
  李煕子さんと塩川さん
遺族の願いを切り捨ててきた昨年までの3条件に比して、(1)で言うデータベース化の言及は初めてであり、いくら厚労省が拒んでも遺族とのDNA照合に繋がるものである。(2)について今までは、「記録資料などから、対象となる遺族を相当程度の確率を持って推定できること」という条件の、相当程度の確率を得るために名前のある遺品の存在、ロシアモンゴル地域では墓の名簿に名前があること、が前提となっていたが、今回はその条件を除き「今後は部隊記録等の資料から可能性のある遺族」へと大きく変わったのである。
 昨年の回答では韓国人について、「(3条件を)満たす場合の取り扱いについては、外務省を通じて協議したいと考えます」と答え、さらに「韓国人だけ特別扱いはできない」という趣旨まで言っていた。昨年の回答を踏まえれば「可能性のある部隊の日本人についてはDNA鑑定をしますし、その部隊名簿に名前のある韓国人については、可能性があるものとして韓国政府と協議します」という回答になるはずであるにも関わらず、吉田室長はここで旧3条件を韓国人遺族には押し付けようとした。そのため、李煕子さんは「遺族としては心に届くものがない。2回目の話し合いが設けられたことは前進と思う。死んだ人を返してくれと言うのは無理とわかっている。70年もの間放っておかれたことが遺憾。家族が遺骨を探したいのは当たり前。日本が戦争を起こさなければ父が命を落とすことはなかった」と抗議し、厚労省の不誠実な態度に交渉は、激しいものとなった。
 以下、録音テープからそのやりとりを紹介する。「昨年の回答どおり日本人と同じように扱え」という厳しいやりとりは交渉中2度も繰り返された。

まずは1回目の追及

(吉田室長)
 昨年収容されたクエゼリンの15柱の遺族の特定をどのように進めるかというと、8柱の検体を抽出できた。今後DNAを抽出し、データ化に向けて検討していく。抽出できた際は、関係すると思われる遺族を推定してDNA鑑定の呼びかけを行っていくことになる。その上で遺族を探す必要性がある時は韓国政府と協議していく。
(金敏普F韓国側支援者)
 「必要な場合」と判断する時の具体的な内容を聞きたい。例えば、厚生労働省のホームページにシベリア抑留者の名簿を見ると、日本人の場合名前と出生地がカタカナで書いてあるが、何人かは空欄がある。それは出生地がわからないためか、韓国出身者であるためなのかわからない。必要があればという内容はこんな場合という具体的な説明をしてほしい。
(吉田室長)
 これまで遺留品等があればという条件だったが、多くはみつからない。それに代わる方法として当時の部隊資料等から戦没者を絞り込み、その中から遺族を探し出すという作業になる。韓国内に遺族がいた場合は、韓国政府に協力を仰ぐことになると思う。
(ぐんぐん:日本側支援者)
 4番に関して確認する。遺留品があれば韓国政府と協議するという発言は新条件と異なるように受け止めたが。先ほどのクエゼリンの件では新条件を満たせば韓国政府と協議するということでよろしいですね。
(吉田室長)
 収容作業は日本人が眠っていることを前提に行うが、結果として遺留品などから日本人でないと推測がつく場合はその時点で関係機関と相談する・・・・
(ぐんぐん:日本側支援者)
 それは、今までの話でしょ。緩和された条件のもとでは、韓国政府と相談するということでいいんですか?
(吉田室長)
 はい。新たな要件のもとでは、遺留品がなくても資料などから特定していく作業を進めるということなのでその過程で、保管している資料などから朝鮮半島出身者とおぼしき情報が出た場合はその時点で・・・・
(ぐんぐん:日本側支援者)
 そんなの、わからないでしょ。部隊がわかるだけで,その遺骨が韓国人かどうかはDNA鑑定をやってみないとわからないじゃないのに、なぜあなたはわかるんですか。DNAを調べないとわからないでしょう。中国で死んだ人を沖縄で探せと言っているわけではない。クエゼリンは小さな島じゃないですか。部隊が3つか4つあって絞っていくわけでしょ。その中の遺骨が韓国人か日本人かはDNA鑑定してみないとわかるわけない。日本人に対してやるわけだから、韓国人も対象にするということでいいんですね。
(吉田室長)
 クエゼリンは資料に基づきこれから調査を進めていく。新条件については部隊資料から進めている。
(ぐんぐん:日本側支援者)
 あなたは「遺留品があれば」とか「韓国人とわかれば」とかいいましたが、どうやってわかるんですか。遺留品がなければわからないんで、DNA鑑定をそのためにやるんじゃないですか。白議員が大臣と話していい方向に持ってきているのに、なんで勝手に矮小化するのか。4番についてまじめに答えてください。
(吉田室長)
 遺留品といったのは結果論でして、今後資料に基づいて遺族を特定するための調査をしていきます。
(ぐんぐん:日本側支援者)
 部隊資料から韓国の人がいることがわかれば、韓国政府と協議するということですね。
(吉田室長)そうする必要があると思う。

そして2回目の追及

(ぐんぐん:日本側支援者)
 もう一度確認するが、厚労委員会の議論をふまえて緩和された基準に沿って、韓国人であるという可能性がある場合は韓国政府と協議するということでよろしいですね。
(吉田室長)
 そうとう韓国人であるだろうという可能性が高い場合は、協議するという・・・・・
(ぐんぐん:日本側支援者)
 (可能性が)ある場合でしょ、高いかどうかは、わからないでしょう。部隊の中に韓国人がいれば可能性があるということだけです。あなた、どうやって韓国人ってわかるんですか。遺骨から見分けはつかないでしょう。
(吉田室長)
 まず、資料から調査して・・・・
(ぐんぐん:日本側支援者)
 部隊の中に、韓国の人がいれば可能性があるということで理解していいですね。
(吉田室長)はい。
(ぐんぐん:日本側支援者)
 今、はいと言いましたね。
(吉田室長)
 はい。


厚労省による韓国人排除のための恣意的な運用を、許さない

 厚労委での厚労大臣発言から、遺骸からのDNAデータベース化と同時に、部隊名簿などからDNA鑑定が遺族に呼びかけられることがほぼ明らかになった。そして今回の交渉で、韓国人遺族についても「部隊資料から韓国人がいれば、可能性があるもとして韓国政府と協議する」ことを、3人の国会議員の前で確認した。神本議員からは「一定の確認ができた」との発言もあった。しかし一方で、何とかハードルを上げようとする厚労省の不誠実な態度も目の当たりにした。今回のやりとりを踏まえた文書回答を求めているが、確認点を下げる回答をしてくるかも知れない。
 私たちはこの不安定な(原因は厚労省官僚の不誠実さ)成果を確定させ、次、4合目5合目へと登っていく道を見つけている。今回参加した白眞勲議員から「すべての遺族からのDNA鑑定を求め、遺骨と遺族双方からデータベース化し照合していくことが解決の道である。難しくはない。私は7月10日に行われる日韓(韓日)議員連盟の合同総会の歴史文化分科会の日本側代表なので、この問題を分科会や韓国側委員に提案していく。韓国の議員に遺族のDNAを集めてもらう」との表明がなされた。また交渉後、韓国・太平洋戦争被害者補償推進協議会は、韓日議員連盟に対し、@歴史文化委員会の議員が正式に遺骨問題を共同議題とすること。A韓国政府が希望する遺族のDNA情報のデータを集め日本政府と交渉すること、などを要請した。このニュースが発行されている頃は、合同総会の結果が出ているはずだ。日韓議員連盟には自民党から共産党まで幅広い議員が参加している。日本の遺族にとっても遺骨を家族に戻すことは70年来の悲願である。戦後70年、戦争の反省に立ち、日韓の遺族の思いに応える和解のための事業として、また平和のための事業としてこの事業を進めることに反対する余地はないはずである。

◆ 続報
 7月10日東京開催の日韓・韓日議員連盟合同総会で、「韓国人遺族からDNAを採取するなど、遺骨探しに両国政府が積極的に対応するよう促す」ことが合意されました。
   
⇒聯合ニュース日本語版(2015.7.10) 

李煕子(イ・ヒジャ)さん 白議員(左) 相原議員(中央)

 今回の厚労省交渉での回答を次に掲載する。

6月22日厚労省ヒアリングでの回答とやりと

@ 99年以降シベリア・モンゴルで7085人分、フィリピンなど他の地域で1113人分の検体を採取しているとされているが、報道されている硫黄島406、沖縄106、フィリピン34、パラオ4、東部ニューギニア189以外は?シベリアでは、墓ごとの名簿があると聞くが、今まで朝鮮人の遺骨が記された名簿を日本政府は持っていないのか。また朝鮮人のみの墓や、日本人と朝鮮人の混葬された墓の遺骨および名簿は返還されていないのか。シベリア関係で朝鮮人の可能性のある遺骨からDNA検体を採取しているのか。

(吉田室長)
 スマーク・ソロモン諸島で140、ノモンハン地域で67、マーシャル諸島で41、インドネシアで40です。シベリアに関しては、ロシア(ソ連)から提供された抑留中死亡者名簿があり、記載内容から朝鮮人と思われる資料があります。要望のお尋ねですが、混葬墓地での収拾は行っていません。またそこでの検体採取も行っていません。また朝鮮人名簿についてかつて韓国政府から「日本政府がもっている名簿を提供できないか」という照会があったので、ロシア政府に問い合わせたところ「捕虜収容所に収容されていた韓国人捕虜すべてに関する問題はロ韓間で処理すべきと考えるため、韓国政府から日本政府に対し資料の提供依頼があっても提供は差し控えていただきたい」との回答があった。このため、韓国政府への資料提供は考えていないが、戦時中日本軍に属していた方の資料は厚労省に保管されており、遺族などから依頼があれば情報提供します。

A クエゼリン環礁エニンブル島で発見された遺骨について、昨年11月9日から26日の間で遺骨収集帰還応急派遣により、遺骨受領および調査を行うとのことであったが、その結果を明らかにすること。

(吉田室長)
 今回、15柱の遺骨を収容し日本へ送還しました。
(交渉の過程での吉田室長の補足)
 昨年収容されたクエゼリンの15柱の遺族の特定をどのように進めるかというと、8柱の検体を抽出できた。今後DNAを抽出し、データ化に向けて検討していく。抽出できた際は、関係すると思われる遺族を推定してDNA鑑定の呼びかけを行っていくことになる。その上で遺族を探す必要性がある時は韓国政府と協議していく。うち8柱からDNA検体を取った。今後、DNAを抽出し、関係ある部隊の資料の遺族にDNA鑑定を呼びかける。

B 今年度中にも遺族にDNA照合を遺留品なしでも呼びかけるとなっているが、緩和された実施条件は、どのような基準・方法で遺族に照合を呼びかけるのか

(吉田室長)
 読売新聞で報道のあった件ですが、白議員からの国会での要望を踏まえ、大臣が新たな取り扱いに関して表明したところです。
 固体性のある遺骨については、DNAの抽出が可能であれば全てデータ化を行う。
 ロシア・モンゴル抑留地域以外の収容遺骨は、これまで遺留品等があることが条件でしたが、今後は部隊記録等の資料から可能性のある遺族へよびかけを行いDNA照合を行う方向で検討中であります。

C 昨年、厚生労働省からなされた「回答」は、遺品の存在などを前提としたが、それでも「実施条件をみたす場合の取り扱いについては、外務省を通じて韓国政府と協議する」という回答であった。今回、緩和された実施条件で、ただちに韓国政府と協議すること。
 また、遺族の高齢化を鑑み、将来発見される遺骨とのDNA照合に備え、現在収容されている遺骨の関係者だけではなく希望する遺族全員のDNA検体採取を呼びかけること。

(吉田室長)
 先ほどのとおり、DNA鑑定を実施する新たな基準・具体的な方法は現在検討中であり、仮に新たな実施基準のもとで遺品で朝鮮人と思われる遺骨が発見された場合は収容せず、現地の政府機関を通じて対応し、並行してこちらでも適切な対応を行います。

(Cについては、不当な回答に対し、交渉の中で前述した内容を確認)
(ぐんぐん:日本側支援者)
 部隊の中に、韓国の人がいれば可能性があるということで理解していいですね。
(吉田室長)
 はい。
(ぐんぐん:日本側支援者)
 今、はいと言いましたね。
(吉田室長)
 はい。


 シベリアでの遺骨収集について、韓国人を排除する姿勢とそのために混葬墓地の日本人遺骨も放置されているという事実が明らかになり、今後の取り組みが問われている。またクエゼリンについては、昨年6名の遺族の名簿を出して交渉しており今後の展開について注視する必要がある。沖縄戦遺族として、塩川さんが自らのDNA検体を受け取るように迫ったが、吉田室長は「要望は承る」とのみ答えた。
 遺骨は今後発掘されるが、遺族はどんどん亡くなっていく、そして亡くなった場所がはっきりしない塩川さんや権水清(クォン・スチョン)さんのお父さんの遺骨を発見するためにも「すべての希望する遺族のDNA鑑定を行う」ことが必要なのだ。それは厚労省による韓国人排除のための恣意的な運用を、許さない方法でもある。