2015年6月22日 「遺骨を家族のもとへ」
5月12日、参議院厚生労働委員会で、昨年の厚労省交渉に参加いただいた、白眞勲議員が戦没者遺骨問題について質疑を行い、「遺骸の横に名前のわかる遺品が無くても、可能性のある部隊の遺族のDNA鑑定を求める」「遺骨のデータベース化を進める」という厚労大臣の答弁を引き出した。また希望するすべての遺族からDNAをデータベースし、遺骨・遺族両方向からの照合を行うという提案が厚労大臣に行われた。翌13日には、菅官房長官が「遺品が無くてもご遺族にDNA鑑定を呼びかけ、気持ちにこたえるのは政府の役割」と実施条件の緩和を表明するに至った。 今回はこの転換点にあたり、要望書を太平洋戦争被害者補償推進協議会が提出し、相原久美子議員を紹介議員とし、神本美恵子議員、白眞勲議員も参加し、厚労省援護局事業課事業推進室吉田室長を相手としたヒアリングを行った。 要求は、 @ 新聞報道されていない遺骨のDNA検体採取の場所と個体数を明らかにすること。 A シベリアでの韓国人遺骨はどうなっているのか。 B 昨年から要請しているクエゼリン島の海岸への遺骨流出問題調査結果の報告 C 厚労大臣のDNA鑑定の緩和発言をうけての取り扱いを示すこと。緩和された実施条件に合う場合韓国政府と協議すること。すべての希望する遺族からDNA情報を取ること である。 昨年に続き、この問題の解決を李煕子さんから付託を受けた沖縄戦遺族であるNPO法人戦没者追悼と平和の会・塩川正隆理事長も交渉をリード。この日は沖縄のどこで死んだかわからないお父様の命日。遺骨を探すため、塩川さん自身のDNA検体も受け取るように厚労省にその思いをぶつけられた。
「部隊資料で韓国人の可能性があれば韓国政府と協議すること」を追及 まず、厚労委員会での厚労大臣の発言について、吉田室長は次のとおり答えた。
昨年の回答では韓国人について、「(3条件を)満たす場合の取り扱いについては、外務省を通じて協議したいと考えます」と答え、さらに「韓国人だけ特別扱いはできない」という趣旨まで言っていた。昨年の回答を踏まえれば「可能性のある部隊の日本人についてはDNA鑑定をしますし、その部隊名簿に名前のある韓国人については、可能性があるものとして韓国政府と協議します」という回答になるはずであるにも関わらず、吉田室長はここで旧3条件を韓国人遺族には押し付けようとした。そのため、李煕子さんは「遺族としては心に届くものがない。2回目の話し合いが設けられたことは前進と思う。死んだ人を返してくれと言うのは無理とわかっている。70年もの間放っておかれたことが遺憾。家族が遺骨を探したいのは当たり前。日本が戦争を起こさなければ父が命を落とすことはなかった」と抗議し、厚労省の不誠実な態度に交渉は、激しいものとなった。 以下、録音テープからそのやりとりを紹介する。「昨年の回答どおり日本人と同じように扱え」という厳しいやりとりは交渉中2度も繰り返された。
厚労省による韓国人排除のための恣意的な運用を、許さない 厚労委での厚労大臣発言から、遺骸からのDNAデータベース化と同時に、部隊名簿などからDNA鑑定が遺族に呼びかけられることがほぼ明らかになった。そして今回の交渉で、韓国人遺族についても「部隊資料から韓国人がいれば、可能性があるもとして韓国政府と協議する」ことを、3人の国会議員の前で確認した。神本議員からは「一定の確認ができた」との発言もあった。しかし一方で、何とかハードルを上げようとする厚労省の不誠実な態度も目の当たりにした。今回のやりとりを踏まえた文書回答を求めているが、確認点を下げる回答をしてくるかも知れない。 私たちはこの不安定な(原因は厚労省官僚の不誠実さ)成果を確定させ、次、4合目5合目へと登っていく道を見つけている。今回参加した白眞勲議員から「すべての遺族からのDNA鑑定を求め、遺骨と遺族双方からデータベース化し照合していくことが解決の道である。難しくはない。私は7月10日に行われる日韓(韓日)議員連盟の合同総会の歴史文化分科会の日本側代表なので、この問題を分科会や韓国側委員に提案していく。韓国の議員に遺族のDNAを集めてもらう」との表明がなされた。また交渉後、韓国・太平洋戦争被害者補償推進協議会は、韓日議員連盟に対し、@歴史文化委員会の議員が正式に遺骨問題を共同議題とすること。A韓国政府が希望する遺族のDNA情報のデータを集め日本政府と交渉すること、などを要請した。このニュースが発行されている頃は、合同総会の結果が出ているはずだ。日韓議員連盟には自民党から共産党まで幅広い議員が参加している。日本の遺族にとっても遺骨を家族に戻すことは70年来の悲願である。戦後70年、戦争の反省に立ち、日韓の遺族の思いに応える和解のための事業として、また平和のための事業としてこの事業を進めることに反対する余地はないはずである。 ◆ 続報 7月10日東京開催の日韓・韓日議員連盟合同総会で、「韓国人遺族からDNAを採取するなど、遺骨探しに両国政府が積極的に対応するよう促す」ことが合意されました。 ⇒聯合ニュース日本語版(2015.7.10)
今回の厚労省交渉での回答を次に掲載する。
シベリアでの遺骨収集について、韓国人を排除する姿勢とそのために混葬墓地の日本人遺骨も放置されているという事実が明らかになり、今後の取り組みが問われている。またクエゼリンについては、昨年6名の遺族の名簿を出して交渉しており今後の展開について注視する必要がある。沖縄戦遺族として、塩川さんが自らのDNA検体を受け取るように迫ったが、吉田室長は「要望は承る」とのみ答えた。 遺骨は今後発掘されるが、遺族はどんどん亡くなっていく、そして亡くなった場所がはっきりしない塩川さんや権水清(クォン・スチョン)さんのお父さんの遺骨を発見するためにも「すべての希望する遺族のDNA鑑定を行う」ことが必要なのだ。それは厚労省による韓国人排除のための恣意的な運用を、許さない方法でもある。 |