ihija

李煕子（イ・ヒジャ）さんの陳述書より

　私は、１９４３年１月３日京幾道江華郡で、父李思炫（イ・サヒョン）と母ハン・オクファの間に生まれました。その当時祖父、祖母、父、母、叔父３人、叔母３人そして本人が一緒に暮らし、農業を営んでいました。祖父は農業のほかにも市の日になると牛車に荷物を積んであげる仕事をしました。
　父が徴用に行く当時、私は１歳をすぎたころだったので記憶がほとんどなく、父についての話は母方の祖母から詳しく聞きました。
　その当時は戦争がひどく勃発しているときだったので、一定の年になると徴用から逃れることができなかったそうです。家から必ず一人が徴用に行かなければならず、父の兄は父の祖父の兄弟のところに養子に行ったので父が令状を受けなければなりませんでした。叔父たちはとても幼く、家の生計を引っ張っていく人がいなかったので、父も徴用から逃れようとしていたそうです。昼間は家に戻って来られず息を潜め戦争が終わることだけを待っていましたが、これ以上逃れることができないので徴用に行くことになりました。家ではみんな反対しましたが、「逃れまわるのは体もしんどいし早く徴用に行ってきて落ち着いた心で家庭を引っ張って行かなければ」といい出ていったそうです。
　父は１９４４年旧暦の正月を過ごして徴用に行きましたが、当時は北海道に行ったと聞きました。父は徴用に行く日母と本人を母方の祖母と一緒に過ごすように実家に連れていってくれてそれから出発したそうです。家族も多いし働き手もない本家で苦労しながら暮らすのではなく、実家に行って心落ち着けて過ごしなさいという意味だったそうです。当時幼いとき本人がなぜ母方の家で過ごさなければいけないかわからず、母方の祖母は髪の毛をといてくれながら父は日本に徴用に行ったと話してくれ、父は闊達な性格で情も多く壮健な体格で力もあり祖母をよく助けてくれたなど、父についてのすべてのことをいつも話してくれました。父は幼い叔父（母の男兄弟）と一緒に、一人で暮らす祖母の家に農業をよく手伝いに行っていたので、祖母は帰ってこない婿について悔しい気持ちが大きかったみたいで、父がプレゼントした石うすをとても大事にし父を思い出しているみたいでした。今になって考えてみると父についての記憶がない私に父を覚えてもらおうとあのようにたくさん話してくれたように思えます。母と本人は正月や法事、家での行事がある時だけ本家に行ってきました。母方の祖母は父を思い出し、待ち、母と幼い本人を見ると心が怒りでいっぱいになる苦痛から心の病気が大きかったです（怒り、悔しさを押さえられない苦痛から精神的に大変だったようです）。祖母はため息をよくつき、心の中が怒りで押さえられなくなる病気になり、そのたびにに直接、鍼をしました。
　父は徴用に行ったあと手紙を本家に２回ほど送り、祖父が受け取りましたが、母に内容を知らせなかったので父がどこにいるか正確にはわからなかったといいます。父は母の実家にも手紙を送ったそうです。中国の戦場にいて戦争がいつ終わるかわからないけど終わったら帰るという手紙が１９４４年冬最後に来たそうです。
　母方の祖母は本人に対する愛情が特別で文句一つもとんでこずよく面倒をみてくれました。解放後父は帰って来ず、祖母は遠い草原を見てまだかまだかと父を待ち続けました。祖母と母は時間が過ぎても帰って来ないので各自父についての便りを聞くために腕のいい巫女を捜し歩きました。周辺では父の性格上解放されるや否や戻ってくるはずなのに帰って来ないことは死んでしまったからだといいました。誰も父の死亡を目撃したと聞いたこともなく死亡通知書もないので信じることができませんでした。
　父が帰ってきませんでしたが母方の実家でずっと過ごし、周辺の親戚たちや近所の人たちは母に再婚するよういいました。ある冬の日部屋の中に近所のおばさんが集まって座り本人を指差しながら「娘一人信じて一人で生きるのではなく再婚をしなさい」といい、幼心にもとても恨めしく思いました。父がどこかに生きていると信じている心に母方の実家の家族たちは母の再婚を内心反対していましたが表では表現できませんでした。本家では母と本人が不幸せで父が帰って来ないといい、その後母は本家にもっと行かなくなり本人だけ行くよういいました。母は本家で本人とただ二人だけで暮らせる家でも準備してくれるのだったら再婚をせず生きていくといいましたが、本家では知らないふりをするのでとても心傷ついて帰って来ない父を恨んでいました。本家では本人が娘であるので母はいつか再婚するだろうと判断し母に一人で生きていくことができる機会を用意してくれませんでした。
　母方の実家に行くことになった母は機織りの仕事をし、生計を維持してきました。父がいない子という声を聞かず、気力をなくして生きていかないようにするため韓国戦争で貧困な生活でしたが本人にだけは豊かで不足のないようにしてくれました。しかし韓国戦争が勃発して戦場に行ったらたくさんの人が死ぬことを見て、母は父も戦場で死んだのだと信じるようになりました。生活はもっと貧しくなり女一人生きていくことはとてもたいへんで、私が１０歳になった年に再婚をしました。
　　母は私をつれて再婚をしたら生活と教育問題が解決されると考えていました。本家から私を連れて行こうと何回かきていましたが、母が手放すことはできないといいました。母についていった新しい父の家で国民学校２年生に進学し、母方の祖母から受けた愛みたいなのはありませんし、情を注ぐようなところがありませんでした。母は以前とは違いいつも田んぼと畑で仕事だけをし、新しい父ともよくけんかをしました。完全に変わった生活環境は幼い本人に大きなショックを与え、祖母がいつも話してくれた父と今の新しい父と比較されもっと悲しい心情でした。中学校に進学したかったのですが国民学校卒業生中中学校に進学した友達は誰もいなく、母は送りたかったのですが、新しい父が関心もなかったので母は中学校に行かせてあげることはできないといいました。中学校進学をあきらめて母に突っかかりもしましたし、新しい父に対して不満と葛藤がうまれました。
　母は再婚して心の病気にかかりいつも神経性胃腸炎に苦しめられ、確認できない父の死亡届を出したことによって、いつも罪意識の中で生きてきながら、たくさん流した涙によってできた病気になりました。母は結局胃がんでこの世を去り、亡くなる前まで夢の中に出てくる父は、徴用に行くときに着ていたその服その姿で出てきたといい、なぜ来ないのかと聞くと同僚たちと食事をしながら食事が終わったら帰ると言っていたといいました。
　７０年代遺族たちに支給される慰労金は（父方の）祖母が受け取ったと母から聞きました。釜山に遺骨があるといい叔父が参席しましたが母と本人がいるとの思いで遺骨を持って来なかったといいました。江華郡庁職員が家に父の遺骨を持ってきて、遺骨引き受け文書には祖母が受け取ることになっていました。本家では父の葬式をあげ、祖母は本人に知らせることを拒否したと周辺の親戚が母に知らせてくれたそうです。日本が私たちの家庭を完全に根っこからゆるがしておきながら私たち母子はとても長い苦痛の歳月を送らなければなりませんでした。
　８９年度に太平洋戦争犠牲者遺族会という団体を知り、子どもとして父に対する名誉回復と正確な記録を探すために一生懸命活動をしました。活動をして知った日本人に父についての記録を探して欲しいと頼んだところ、１９９６年５月確実な記録を日本防衛庁からもらいました。記録によると１９４４年２月１９日家から出発した父は陸軍軍属として１９４４年３月５日龍山駅を出発し中国に派遣され、特設建築勤務１０１中隊で勤務し、同年６月１１日グァンソ省第１８０兵站病院で死亡したと記録されていました。未支給給与金として１４８０円が供託されていました。もっと驚いた事実は留守名簿を見て父の名簿が日本靖国神社に合祀されていることでした。
　若い年に他の国の戦場で家族をしのび死んでいった父がとてもかわいそうで、そのかわいそうな父の情が心の中の片隅で恨みと憎しみで満ちていて、家族愛の空席が悲しみと苦痛で成り立ち、父に対する懐かしさが残っていたという事実は多分父母兄弟の間で切断することができない鉄の鎖だと思います。日本から真実な謝罪を受けなければ亡くなった父と母も許してはくれず最後まで見届けてくれていることと思います。
　私が母方の実家で育ったこと、父方の祖母との葛藤、母の再婚、がらっとかわった生活環境から受けた傷、新しい父との葛藤、学業のあきらめなどすべてのことは父がいないために発生したことでした。父の顔も知らず、声も記憶になく、父だと一回も呼んだことがないまま今まで生きてきました。若い父を強制的に引っ張っていきほかの家族たちの人生までもがらっと変えてしまった日本という国がとても恨めしく思います。
　日本政府は私たち家族の名誉回復のために真相究明を徹底して、家族たちの恨みで結ばれた痛い心を慰めてくれるよう、早い月日内に正当な補償がなされることをお願いします。
２０００年９月１６日