「イ・ヒジャさんの最終陳述」

 2月15日、午前11時から行われた在韓軍人軍属裁判の最終口頭弁論で原告イ・ヒジャさんが靖国合祀について最終陳述しました。

最終陳述

 私は日帝により国を奪われていた日帝強占期に、当時の朝鮮の京畿道江華で生まれました。私の父が強制的に連行された経緯と、父親が戦死した後にも長いこと生死を知ることができず、家族になんの通知も送られないまま靖国神社に合祀された事実については、すでに本人尋問で十分に陳述したと思います。
 
 日帝は韓半島を強占した後、当時の朝鮮人を同化させるために全国に神社を建立しました。当時、神社建立は朝鮮人を宗教的・思想的に日本の天皇に隷属させるための手段として推進されました。多くの人々が神社参拝を拒否して投獄されました。当時の主要日刊紙である東亜日報は神社参拝を迷信的偶像崇拝として批判して停刊処分を受けました。多くの学校が神社参拝に従わなかったとして廃校になりもしました。終戦になると全国の神社はすべて燃やされました。少なくとも韓国人にとって神社は民族精神を抹殺するための施設であり、恥辱の象徴でした。
 
 解放されて半世紀も過ぎましたが、私の父がいつ、どこで、どのようにして亡くなったかについて、日本政府からいかなる解明も聞かされていません。ところが驚いたことに日本政府は父の死亡記録を靖国神社に知らせて、靖国の神として祀ることができるよう合祀手続きを進めました。韓国政府も知らず、遺族である私にも知らせないまま、無断で合祀させたのです。
 
 先に述べましたように、韓国人にとって靖国神社は恥辱の象徴です。どの韓国人も靖国神社を尊敬の対象として考えておらず、侵略戦争の歴史を歪曲して侵略戦争の主謀者と戦争被害者を、天皇のために犠牲になった神として共に祀っている「宗教施設」であると考えています。私は自分なりの宗教観を持っており、決して靖国神社の宗教観に従うことはできません。韓国人にとって靖国神社が信奉している国家神道は韓国人が望んでいたものではなく、日帝の強圧により強制されたものです。
 
 日帝の強占からの解放を迎えた以上、韓国人はもう日本人ではありません。私は自分の望む所で私の望む方法で父を祀りたいのです。誰も私に靖国神社合祀を強要する権利はありません。これは過去にも、また今日の日本国憲法にも規定されている厳然たる事実です。
 
 それなのに日本政府と靖国神社は昭和34年(1959年)4月6日に合祀を行ったと言います。合祀した時はすでに韓国は日本から独立しており、政府が樹立されている状態でした。日本政府と靖国神社は合祀以前に韓国政府と犠牲者の遺族に意思を問うべきであったということはあまりにも当然のことです。
 
 私の父は靖国神社の霊璽簿に父を死なせた主謀者と共に祭神として記載されています。これはまるで一つの慰霊碑に殺人者と犠牲者の名を刻むようなものです。それも父や私が望みもしない所に、望みもしない宗教儀式にのっとって供養されているのです。私が私の望む方法で、私の望む場所に父を祀りたいだけなのです。
 
 靖国神社は一度合祀すると取り下げることはできないと言います。私は霊璽簿に記されている父の記録を抹消することを要求しています。霊璽簿に記載する行為は人間の行為であり、削除するのもまた人間の意志で可能なはずです。私は今回父の戸籍を整理しました。日本政府が確認した記録上の父の死亡日時と場所に訂正したのです。私の父の死を取り消すことはできませんが、間違った記録は訂正することができます。

 同様に私は父にも私にも決して名誉なことではない宗教施設に無断に名前が載せられていることを望みません。
 
 私が父の合祀を取り下げてほしいと要求するために靖国神社を訪問した時、靖国神社前に待機していた日本人から「汚い朝鮮人は出て行け」と言われました。父が靖国神社に合祀されていなかったら、私は靖国神社を訪ねる理由もなく、汚い朝鮮人は出て行けなどと罵られることもないでしよう。汚い朝鮮人は出て行けなどと言われてまで父を取り戻しに靖国神社を訪ねたくはないというのが、遺族である私の気持ちです。
 
 最近、韓国人のキリスト教団では神社参拝を最後まで拒否できなかったことが日帝に加担した行為であるとして、それに対し反省と懺悔の声明書を発表しました。韓国人にとって神社参拝は恥ずべき行為であり、公式的に懺悔しなくてはならないほど不名誉なことです。私は父が日帝の強圧により強制動員され惜しくも犠牲を受けた上に、これ以上二重の不名誉を受けたくありません。

 このような胸の痛む韓国人遺族の気持ちを察していただき、裁判長は賢明な判決を下していただきますようよろしくお願いします。

2006年2月15日                        
                                               原告 李煕子(イ・ヒジャ)
                                                    (日本語訳:赤池すなお)