在韓軍人軍属裁判を支援する会ニュースレター

「未来への架け橋」 NO.8 (2001.12.6発行)

 

小泉「おかしい人」発言・自衛隊の参戦 NO!
 11月1日、GUNGUN裁判の原告をはじめ、大阪・松山・福岡の市民が、小泉首相の靖国参拝による人権侵害に対する損害賠償、将来の参拝差し止めを求めて、各地裁に提訴しました。しかしその当日、小泉首相は「話にならんね。世の中おかしい人たちがいるもんだ。もう話にならんよ」と言い放ちました。この発言は、意見の異なるものの存在を許さない、戦時中の「非国民」に通じるものであり、許すことはできません。在韓原告からは、「本人や遺族の意思を 踏みにじってA級戦犯と一緒に合祀しておきながら、抗議する人を『おかしい』というなどもってのほか」と激しく怒りが沸き起こり、原告団は12月、この発言を名誉毀損として、追加提訴します。
 小泉政権はこの間、テロ報復に名を借りて、一気に自衛隊派遣・PKF参加凍結解除など、戦争国家づくりを進め、その本性を露にしています。
 来年はワールドカップ日韓共同開催の年。侵略戦争の総括=戦後補償実現と、参戦STOPのために、日韓市民の共同行動をさらに広げましょう。

GUNGUNボランティアツアー報告 (小川 貞子)

 11月9日〜11日、総勢23名の訪韓の目的は、江原道での納骨堂に供養塔を建てること、そして、韓日の親善サッカーを実現することでした。参加者の年齢は幅広く、高校生から60代まで。軍人軍属の裁判支援を開始してから、初めての大規模なツアーとなりました。

金景錫さんの挨拶

 太平洋戦争韓国人犠牲者遺族会の事務所に到着するなり「あっ!来た! 来た!」という会長・金景錫さんの声に迎えられ、早速、挨拶を受けました。
「反日感情の強い家から徴用者を出すことが目的で、兄が徴用された。その兄は帰らない。兄の遺骨を探してこの春川につれて帰るのが母の遺言。兄の遺骨を探して北海道から九州の知覧まで何回となく日本を訪れたけれど、兄の遺骨はわからない。しかし名前のわからない遺骨が日本のお寺に多く安置されているのを知り、持ち帰ってきた。その遺骨が513体ある。日本が私たちに行った無惨な仕打ちを後世に残し、悲惨な出来事の戒めとするために、納骨堂を作った。日本名しかわからない。せめて韓国名がわかれば、遺族の元に返せるのに・・・。納骨堂は、市役所から永久貸与してもらったが、整地や納骨堂建設のために、2000万円の私財を投じた。」 「私の10年来の悲願であった供養塔が、GUNGUNのみなさんの協力で、完成する。こんなうれしいことはない。いっさいを私財で行うのが私の意志であったが、ありがたく協力を受けます。」

慰霊祭

 9日の仕事を終えて、夜遅く春川に到着したメンバーや、日本からの留学生3名も加わって、10日は総勢23名で、納骨堂の草引きと清掃を遺族会の人たちとともに行った。

  サッカー強国・韓国の人とサッカーをする事が目的で参加した若者たちも、次第に厳粛な気持ちになり、非常に熱心に草を刈りとった後、自らが名前を刻んだ石を敷き詰めた供養塔に礼拝した。この供養塔は、GUNGUNの呼びかけに答えて、匿名や、メッセージを添えて、多くの人から寄付が集まり、そのお金で建立できたものだ。敷き詰めた石は、過去の過ちを清算し、真の日韓交流を実現しようと願う日本の人々の心、意志(石)を持ち寄ったもの。
 韓国式のお供え物と慰霊祭の料理を振る舞われて、「そんなに飲んだら、試合ができるか?」など冗談を飛ばしながら、納骨堂の前で歓談した。留学生と、日本の若者、通訳で参加した韓国の若者も個々に交流した。隣に座った遺族会のハラボジは日本語が話せる。戦時中大阪の大同製鋼に強制連行されたという話を聞きながら、この人たちが生きている間に戦後補償を実現せねばと強く思う。

  金景錫さんに「韓日知識人サッカー親善試合」と銘打ったその意味は?と問うとこう答えた。「自分の国が犯した過ちを認めて、それを改めようと行動に起こすことは、簡単にできることではない。政府の動きとは反対の行動を起こすことは並大抵の勇気ではできないことです。みなさんはそれをしている。知識人の真の意味は、先導者のことです。だから、知識人とはみなさんのことです。」(そうか、私達は知識人なのか・・)と、身の引き締まる感動を覚えたと、参加者の木村さん、山口さんは語った。

いよいよサッカー大会。プレー開始!

 なんといってもグランドがすごい!通常の大会では滅多に借りることができないグランドである。3万人は入るだろう。聖火台までついている。参加者は、思わずため息。サッカー青年は、こんなグランドで試合できるだけでも、すでに感激の極み! 日本チームは、「グングンいこうぜ」チーム。觜本監督の下にポジションも確定した。 対する韓国チームは、「心をひとつに(ハンマウム)チーム」筋肉も引き締まって日に焼けて、いかにも強そう。

  何故か、御園生さんの足の白さが、古川さんのぷよぷよした足に目がいく。しかし、当人たちはすこぶるやる気満々。まっ、いいさ。とにかく、プレーしよう! 女性選手の畑さんは、ガッツがあった。御園生さんは、靴擦れをしながらもまさかの大奮闘。古川さんも足はもつれながらも体を張って頑張った。監督觜本さんは、足が速い。転んで一回転。けがなし。大阪からの、職場サッカーチームの小川、細川、寺坂さんらは、さすがに心が通っているのか安定したプレーを展開。韓国チームから「ブラザー」と呼ばれて気をよくした。後半ゴールキーパーを努めた西野さんは、口でプレーした。しかし、歌で鍛えた声がグランド中に響いていた。玉ちゃんこと延山さんは、何故かボールが来ると顔を覆ってプレーした。 結果は、5対2で、GUNGUNチームの完敗。でも、楽しかった!
 金景錫さんは「国と国との力関係では、韓国は日本に勝つことはできない。日本に抑圧された歴史が『恨』となって血に受け継がれている。どうしても日本に勝ちたいという血の叫びをわかってやってほしい。」と言われた。しかし、実力は明らかに韓国チームの優勢であった。負けてさわやか。今回は第1回目。次回はもっと頑張るぞ!
 続いて夕食交流会。記念に用意した軍手人形にメッセージを書き込んで、「心をひとつに」チームに手渡して、大いに交流会は盛り上がった。若者たちは、そのまま2次会へと流れ込み、サッカー談義に花が咲いた。「心をひとつに」チームから、夕食会は是非とも我々に持たせて欲しいと申し出があった。その真意は、「単にサッカー交流ではなく、戦後補償の運動に関わっている日本の人たちに、私達の心を受けとめてもらいたい。私達も非常に楽しんだ。」 私達は心を受けることにした。





今回ツアーの成果

 教科書問題、靖国問題、歴史認識の歪曲・・・。韓日の関係は、政府間では非常に危うく、冷え切っているけど、大事なのは市民の力。若者の中に、韓日交流の意識が広がってきたのが、今回の大きな成果。そして供養塔は、私達市民レベルの共有財産。歴史歪曲を許さない侵略の証拠である。大切に守っていきながら、その守り手を若者の中に育てていきたい。

《金景錫さんの感想》

 今回のような実りある訪問はこれまでになかった。多くは私たちの話を聞くまでだった。供養塔については十年来の夢を果たせた。サッカーにとどまらず、日韓の若い人を結びつけたことが、大きな意義があった。供養塔の大きな岩は100年たっても1000年たっても残る。

《参加者の感想》
畑典子さん

「ぐんぐん裁判にかかわり、日本が朝鮮に何をしてきたかがよくわかってきた。事実を知ることで、初めは日本がいややと思ったが、サッカー交流やこちらでがんばっている人と話をして、『正直なところ、反日感情があったが今はなくなった』と言ってくれた。国と国としてでなく、個人としてどうしていくのか、改めて感じられたのが良かった。」

細川鉄平君

「初め小川君から話があって、サッカーをする以外、あとは何も知らなくて来た。きのう、サッカーの後、僕は人に興味があって、相手の人を知ろうと思ったので相手チームの人たちと話をした。韓国の人が好きになった。」

鄭孝志君(ソウル在住留学生)

「父からいろいろと戦争の話など聞いていたが、今回全く知らない話がたくさんあって勉強させられた。そして春川での韓国人の方々との交流。たかがサッカーをしただけなのに暖かく接してくださり、昔からの友達でいるような感じがした。ツアーに参加でき、とってもためになった。」

村上智さん

「日韓両国は共通点を持っているのに、真の友好関係が結べていないことに疑問を持っていた。今回の旅行で少しだけ知ることができた。今後いろんな交流をしていきたいということを思いながら納骨堂の草抜きをし、終わったとき、すがすがしい気持ちになれた。韓国の人とサッカーをしたり、お酒を飲んでカラオケに行って騒いだりして、言葉は通じないけど、そういう場に参加できたことに意味があったように思う。別れるとき握手をして、「また会いましょう」、「日本に来た時にはまたカラオケに行きましょう」と別れた。とても楽しかった。来年もこういう旅行に参加して、今以上に韓国のことを考えたい。」
 

小泉の「おかしい人」発言に韓国からの怒りの声
12月25日 名誉毀損で追加提訴へ

 11月1日に小泉の靖国参拝を違憲として提訴した原告に対して、小泉首相は「話にならんね。世の中おかしい人たちがいるもんだ。もう話にならんよ」と言い、また福田康夫官房長官も「そういうことを言って、小泉純一郎の信仰の自由を妨げるというのは、それこそ憲法違反じゃないですか」と言いました。この発言はアジアからの批判に耳を貸さないばかりか、意見の違いを認めず「非国民」扱いする許すべかざるものです。アジア訴訟団(大阪)はただちにこの発言に対して抗議声明を出し、12月25日(予定)には名誉毀損で追加提訴する方針を決定しました。

韓国からの声
金景錫さん(小泉首相靖国参拝違憲アジア訴訟団韓国原告団長:太平洋戦争韓国人犠牲者遺族会会長)

 上の水濁れば、下の水も濁る。小泉氏の眼下無人の発言は、彼自身の人格を疑わざるをえない。信仰の自由は、あくまで公益の範囲内であることはいうまでもない。首相の立場と個人の立場は、その行動範囲が違うことは周知のことである。「世の中おかしい人もいるもんだね」はそっくり彼自身に返納すべきである。数多くの青年たちを強制徴集した、「殺人国・日本」は、今やその霊さえも帰さず、死してなお靖国に捕らえている。この悲惨な事実は何を物語っているのか、熟考すべきである。

太平洋戦争被害者補償推進協議会の声明(一部抜粋)

 我々は小泉日本総理に日本の善良な良心勢力と韓国人犠牲者達を指し示して「おかしな人達」と軽蔑した発言に対して総理談話を通じた謝罪と共に、今後靖国神社参拝中止を促求し、これに対する調査が伴わない時、日本総理に対して名誉毀損嫌疑で提訴するだろう。 我々は侵略戦争を図った<A級戦犯者達>と一緒に強制連行で幽冥を別にした韓国人霊魂をすべて天皇の忠臣として奉っている靖国神社の韓国人合祀を即時取り消し事を日本政府と靖国神社側に強く要請する。


グングン連続講座パートUはじまる!(東京)
「靖国参拝・合祀違憲訴訟問題」 11月15日 今村嗣夫弁護士

 パートUの第1回目は、靖国訴訟や戦後補償訴訟に深く関わっている、今村嗣夫弁護士から「靖国合祀の歴史と問題」について学習しました。6月29日の合祀絶止提訴、11月1日の小泉参拝違憲訴訟提訴を踏まえて開催したもので、当日は専修大学の古川ゼミからの参加者も含め35名が参加しました。
 冒頭今村弁護士から、小泉首相の「おかしい人」発言に対してどう考えるか、という問題提起から始まり、これまでの靖国訴訟の全体像が明らかにされました。

 憲法20条に規定される宗教に対する憲法上の原則には、「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する」という(狭義の)信教の自由の原則、「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、または政治上の権力を行使してはならない」とする政教分離の原則(広義の信教の自由)がある。国の介入・特権の排除こそが問われている。津地鎮祭違憲訴訟や、山口県自衛官合祀違憲訴訟を通じて、「国家神道はいわゆる軍国主義の精神的基盤となっていた」(津地鎮祭最高裁判決反対意見)のであり、それを繰り返さないために、「少数者の人権の保障」の原則、「平和的生存権保障」の原則が厳格に守られなければならない。たとえわずかでも国家が介入することにあれば、信教の自由、政教分離の原則は崩され、今なお「英霊」を祀り侵略戦争を美化する靖国神社を再び公のものとすることになる。

 GUNGUN裁判原告は宗教的信念で合祀取り下げを求めているのではなく、植民地支配の隷属に今なお置かれている亡き父兄のために求めています。しかし靖国神社側は「当時彼らは日本人であった」から合祀すると言い、植民地支配を正当化し続けています。 今回の講座では、靖国問題の難しさと重要性など多くのことを学びました。「合祀絶止」は二度と侵略戦争を許さない、未来を切り開く運動である思いを強くしました。(御園生)

GUNGUN原告在韓2団体が「多田謡子反権力人権賞」受賞!
(太平洋戦争韓国人犠牲者遺族会と太平洋戦争被害者保障推進協議会)

「多田謡子反権力人権賞」は今年が13回目。国家権力をはじめとする、あらゆる権力に対し、人権擁護のために草の根で闘っている人々を顕彰することを目的に設立された賞。12月15日に東京で受賞記念セレモニーが開かれます。


GUNGUN原告を知ってねコーナー
二重の迷惑 生存しているのに靖国に合祀
(原告bR9) 金智坤(キム・チゴン)さん

 1936年7月平壌陸軍航空支庁に軍属として配置。38年ハンフン、40年満州を経て、44年8月フィリピン派遣第4航空司令部に移り、フィリピン作戦に参加。45年1月1日米軍上陸で抵抗不能になり、数十回の死線を越えて山岳地帯に後退し、草の根、木の皮を食べながら命をつなぎとめた。45年9月米軍冠禮捕虜収容所に収容。45年12月日本に送還され帰国した。年金、貯金、諸手当金の支払いを求める。最近の調査で本人は生存しているのに靖国に合祀されていることが判明。「軍国主義の象徴の靖国に祀られるなんて迷惑この上ない」と語る。


靖国合祀は暴力的で屈辱的
(原告bQ52)李英燦(イ・ヨンチャン)さん

  43年、9歳の時に父(李二奉さん)が徴用に行く時、警察署の前でトラックに乗って行く父を祖母と母が名前を呼び、涙を流していた。父の遺骨が帰ってきた日、白い箱を抱いて涙を流しながら家に帰った。その後母は再婚。私と弟達を面倒見る人がいなくて、新聞配達をしながら生計を維持した。朝鮮戦争が勃発して16歳で学徒兵に徴集。今年になって父が靖国に合祀されていることが判明。「日本の戦争指導者たちと同じところに父が合祀されていることは、暴力的で侮辱的だ」「家族を失って経験した苦痛、苦々しい現実を、日本は知っているのか。責任を感じているのか追及していく」と語る。


読書案内  もっと知ろう朝鮮
 岩波ジュニア新書bR66 尹健次著 740円+税

 ワールドカップ開催と日韓国民交流年・在日朝鮮人の活躍・朝鮮と日本の距離が縮まっているように見える中、私たちは朝鮮をどれだけ知っているでしょう? 古代からの文化交流、近代の歴史が落とす深い影、統一への模索を始めた南北のありよう、そして60数万人の在日朝鮮人の暮らしに目を向け、「朝鮮」を知りながら「日本」を知ることのできる本です。21世紀をともに生きるために、若い人におすすめの一冊です。(畑)


GUNGUNインフォメーション

12月 7日 東京:小泉首相・石原知事靖国違憲訴訟報告集会(14時半、弁護士会館)
    8日 東京:強制連行企業責任追及裁判全国ネット集会(13時、港区勤労福祉会館)
    9日 東京:報復戦争NO!日本の参戦中止を求める全国集会(10時、東京ウィメンズプラザ)
   15日 東京:多田謡子反権力人権賞授賞式
   22日 大阪:「私と靖国」講師・菱木正晴さん(アジア靖国訴訟団事務局長)
          (18時、エル大阪)