在韓軍人軍属裁判を支援する会ニュースレター

「未来への架け橋」 NO.13 (2002.7.25発行)

 

W杯を機に真に近い国になるためのアクションを
 
 
    「映像に残すツアー」で、シベリア抑留者の
    証言を聞き取る(ソウル)
 

 5月10日、日本政府は今野東衆院議員の質問に対する答弁書の中で、GUNGUN裁判の原告の中にもいる「太平丸」(1944年7月千島列島沖で沈没)での朝鮮人元軍属犠牲者の人数を182人と公表しました。956人が犠牲となった事故での朝鮮人被害が戦後57年を経てようやく公表されたのです。しかし依然として「プライバシー」を楯に厚生労働省は朝鮮人犠牲者の名簿を公表しようとしません。ワールドカップを機に「親しみを感じた」国民が互いに増加した今こそ、侵略戦争に対する総括を行うべきです。
 7月3日、GUNGUN裁判の第2回口頭弁論が東京地裁で行われ、裁判所は「事務連絡」を発しました。原告の訴状の中で引用した国際条約や軍事郵便貯金規則、国から靖国への通知などの文書の提出を求める内容です。実質的な審理への入り口が切り開かれつつあります。未払い給与の供託、遺骨の未返還、靖国合祀の関与など日本政府が行ってきた不条理をことごとく立証し、戦後補償を実現しましょう!(第3回公判は9月11日に決定!)


第2回口頭弁論(7月3日東京地裁)報告

裁判所から事務連絡(書証提出要求)が出される!

  〜日鉄裁判を支援する会と協力し、GUNGUN第2回公判一日行動〜
 
 
   

 グングン裁判を支援する会では、7月3日第2回公判にあわせて、日本製鉄元徴用工裁判を支援する会と協力して一日行動を行なった。グングンは、2時から厚生労働省前で原告の顔写真を貼った要求パネルを並べてパフォーマンスを展開、4時からはグングン第2回公判、そして夜は、日鉄と合同で「ワールドカップのあとのもう一つの日韓共催/イギョラ!日鉄・グングン集会」を行い、さらに翌4日には靖国神社への申入れを行なった。第1回時に引き続き厚生労働省、靖国神社との交渉を実現し、裁判所内外で解決に向けたアクションが起こされた。


「一歩も二歩も前進だ!」(大口弁護士)
第2回口頭弁論―裁判所よりの書証提出要求
 
 2時から始まった第2回口頭弁論では、被告日本国からは準備書面T(原告準備書面への回答ともいえぬ回答)、原告の準備書面U(被告準備書面への反論)、V(国・靖国合祀の一体性)が提出された。事実認否をあくまでしようとしない国に対して、原告弁護団は「事実認否をしな被告国の態度はきわめて不誠実で、卑劣である。事実が全ての出発点だ。」(大口弁護士)と強く批判。最後に、中国戦線で父を亡くした李英燦さん、中国戦線に動員され最前線に立たされた李永鎮さんが「侵略戦争を首謀していた戦犯者と一緒に靖国神社に合祀は到底受け入れることのできない」「内鮮一体と言いながら今になって差別するとは背信行為」と訴えた。
 このなかで裁判所(民事19部)から、書証を提出するよう求められた。原告には、日本が朝鮮の外交権を奪った1905年乙巳条約から戦後の靖国合祀通知まで14項目にわたる。被告国が事実認否をしないことが背景にはあるものの、「書証が提出されれば国側も回答せざるを得ない」(弁護団)のだ。大きな前進ということができる。

「父の顔も知らない」李英燦さんの話にしんみり
厚生労働省・靖国神社との交渉報告

 「テーハミング グングン勝利!」の掛け合いコールを背景とした厚生労働省交渉、そして翌日の靖国神社申入れでは、靖国神社への生存者合祀取消しでまた一歩前進した。
 午後2時。厚生労働省前に約25名が集合。支援する会からのアピールのあと、来日している原告がアピール。その後の厚生労働省との交渉では、原告らが「軍国主義の象徴の靖国神社合祀は耐えられない。一日も早く取消しを。特に生存者の合祀などもってのほか」と訴える。厚生労働省は「誤った通知を出したことについて、取消しの手続きを検討したい」と回答。また、靖国神社へ厚生労働省から「間違いであった」旨の文書を出す際に、「遺族が合祀取り消しを強く望んでいる」ことを書き添えていただきたいと申し入れ、厚生労働省側も了解した。遺骨問題では、個別に遺族からの照会(委任状を含む)があれば誠意を持って「日本で保管」「返還済み」「不明」の別について対応することを確認。最後に李英燦さんから「父の顔を見たことがない。軍の記録の中に写真などがないだろうか?」と悲痛な訴えがされ、厚生労働省は「戦友会」にあたるのが近道だろうが、プライバシーの問題があって厚生労働省としてお教えできない」との回答だったが、事務方で何かできないのか今後も実務レベルでのやりとりを続けていくことを確認して交渉を終えた。20歳前後で徴兵・徴用された原告たち。父はそのまま帰ってこなかった。日本政府が誠実に考えるならば行なわなければならないことは多くあるはずだ。
 また翌日行われた、靖国神社との交渉で神社側は生存者合祀について、「皆さんが納得できる方法を考える」と回答した。

 

左から李英燦さん、李永鎭さん、李熙子さん

 

第3回公判は9月11日午前11時30分から

 靖国合祀は大きく焦点化されてきた。この問題を日韓共同でさらに大きくしていかなければならない。と同時に、シベリア抑留、BC級戦犯者問題、そして、最も問われなければならないのは日韓併合の不当性とそのもとでの徴兵・徴用の実態を白日の下にさらし、日韓協定で解決済み論を打ち破っていくことである。問題は法廷だけにあるのではない。真に日韓友好を考えるならば、また、「人道的」立場にたつというのであれば、日本政府にできることは多くある。今回来日の原告の「父の写真を探して欲しい」という訴えを真摯に考えるべきである。


 
「証言を映像に残すツアー」(7/13〜16)報告
 
 

原告集会(ソウル)

 

 日本から11名・通訳ボランティア4名が参加し、ソウル・春川・光州に分かれて、生存者を中心に証言を聞き取り、ビデオに映像を記録しました。光州では生きながら靖国に合祀されている金智坤さんとお会いしました。
 ソウルでの原告集会では70名が参加。「供託金」や「追加提訴」に関する質問が出され、裁判勝利に向けた韓日市民が連帯して闘っていく意義が確認されました。



アジア太平洋戦争の全容がわかる証言!

 「映像に残すツアー」は、大成功でした。内海愛子さんからも「大変かもしれないが是非続けなければならない」と励まされ、この証言を一冊の本にしてはどうかという提案がありました。証言からアジア太平洋戦争の全容がわかるからです。ソウルで聞き取りした方々は、シベリア抑留(中央アジアから酷寒の地域まで3人)、ビルマ戦線に配備された方、ニューギニアの大部分戦死した島から生還した11人の一人、玉砕したクウェゼリン島からの直前に病気で生還した方、中国戦線河南省開封に配備された本原告(今回23名のうち3名が聞取りに参加)、そして、BC級戦犯者とはならなかったものの泰面鉄道やスマトラ銃弾鉄道の作業に捕虜を動員した方などなど、3日間だけでも多くのことを勉強することができたからです。そして、李熙子さん、李英燦さんの父親は同じ中国南部の無謀な作戦(「1号作戦」:中国とインドシナを貫させようという)の犠牲者と思われます。これがどれだけ無謀な作戦・戦争であったかは「飢え死にした英霊たち」(藤原彰著)によくでています。関東のグングン連続講座の講師、樋口雄一さんが言うように「まだわからないことが多すぎる」し、また朝鮮人戦死者が何人かわからない状況です。証言の記録は、アジア太平洋戦争を少しでも明らかにするものになるのではないかと思います。(御園生)

通訳ボランティア(学生さん)からの感想
【丁智恵さん】  〜生き証人の生の声を残したい〜

 聞き取り調査で感じたことは、まず、生存者の方と遺族の方との認識のギャップです。生存者の方々はやはりとことん皇民化教育を受けてらしたので、今でも日本に対する気持ちは愛憎入れ混じる複雑なものではあるものの、例えば日本人の戦友の話になると大変なつかしいような気持ちになられたり、日本の歴史人物に対して尊敬を抱いていたり(ちなみに金智坤さんは徳川家康についての本を10冊ほどもっていらっしゃいました)、一通りでない感情を抱いてらっしゃいました。考えてみれば当然のことですよね。生まれてから二十歳過ぎまで日本人としての教育をびっちり受けてらっしゃったわけですから。お年のこともありますが、過去のことはどうしようもない、未来に向けて韓日が仲良くやって行ってくれればそれが本望だ、というのが共通のお気持ちであるようでした。生存者の方が本当にご高齢であられるので、なんでこんなに時間が経ってまで日本政府は何もして来なかったのかという、歴史を封印しようとしてきた日本政府に対する怒りと、急がなければ間に合わなくなってしまうという焦りも感じました。もしこの方たちが亡くなられたら、日本政府にとっては本当に侵略戦争はなかったものとして封印されてしまう、だからこそ1日でも早く裁判を成功させなければならないんだ、そして生き証人である彼らの生の声を映像に残さなければ、と感じました。
 

【奥田 幸治さん】   〜次の世代が引き継ぎ「対話」を〜
 
 

 もともと戦後問題に詳しいわけではありませんでしたが、昨年11月のサッカー親善試合ツアーに参加したのをきっかけに、少しでもお手伝いできればという思いから翻訳作業をし、今回の聞き取りツアーにも通訳として参加させていただきました。通訳をしながら、生存者、遺族の方の心のなかの叫びを感じました。最終日、原告集会が終わってから遺族の方達と一緒に話をする機会があり、その中で忘れられない一言を聞きくことができました。「私達韓国人の心の中には未だに解かれない心の叫びがある。それを解くためには韓国人、日本人のお互いの’対話’が必要だ。そして一緒に歩もう」と。たとえ自分達の世代がだめでも次の世代の人たちが引き継ぎ、最後まで’対話’して欲しいという想いが伝わってきました。一言でも言葉が通じればお互いが理解しあい、良い感情が生まれてくると思います。今後も通訳という作業を通して日韓友好の架け橋を作るお手伝いができたらと思いました。
 

11月にボランティアツアー第2弾を企画中! 詳細は次号で!
 

応援しています! 大学教員 小塩海平さんからの寄稿
韓国人靖国神社合祀絶止訴訟で問われていること(2)

韓国人靖国合祀の犯罪性 (前号からつづく)

  李洛鎭さんは第一回口頭弁論で、『靖国は日本人にとっては大きな栄光かも知れないが、我々にとっては願ってもいない所に強制連行され、その上我が国ではうしろ指差される「日本軍人」の家族として生きなければならない象徴です。これは死んでなお靖国に祀られ、全国民の非難を受けなければならないことを示しているのです。我々韓国人が靖国に祀られるのは「恥」であり、子々孫々まで拭うことのできない「侮辱」です。私達の後世の子孫に祖先が靖国に合祀されていることをどう説明すればよいでしょうか。靖国合祀の取下げと戦後補償を求めます』と悲痛な思いを述べられた。問題は、靖国神社がこのような加害性をもっているにも拘わらず、なおかつ勝手に祀る自由が認められるかということであろう。このことは今後の裁判で明確に示されることであろうが、私が問題に感じていることを以下に簡単に述べさせていただきたい。

1)靖国神社は祀る自由を乱用していないか?

 
靖国神社にも祀る自由があるということが主張されるが、原告たちの信仰・良心の自由を犯してまでその権利が認められるかということは、徹底的に問われなければならないはずである。まず、合祀を取消す(霊璽簿からの抹消)場合に靖国神社が被る損害と、合祀を取消さない場合に原告が被る損害の比較がなされなければならないが、この場合、靖国神社のような強い立場にあるものは、弱者である原告たちに対して寛容を示さなければならないという原則を考慮すべきである。このような検討に耐えられないようなら、靖国神社は祀る自由を乱用していると言わざるを得ないことになる。

2)靖国神社は宗教と呼ぶに値する思想をもっているか?

 
もちろん、祀る自由ということは尊重されねばならないし、むやみに制限すべきではない。しかし靖国神社の主張を検討してみると、教義上どうしても韓国人を祭らなければならないという理由には説得力を欠いている。例えば「みたま」というものの存在を靖国神社は主張しているが、招魂の儀式においても「みたま」が霊璽簿に宿ったかどうかは金智坤さんの場合のように確認できず、リアリティーが欠如している。また、英霊が個性を失って一体となっているために、韓国人戦没者だけを切り離すことは出来ないというが、そのような事実をどのようにして確認できるのかは不明確である。「何となく有難い」という程度では宗教と呼ぶに値しないし、あるのかないのかよく分からないような不確実なものを、命をかけて、あるいは救いをかけて信仰するということも起こり得ないのではないかと思う。他宗教の教義を批判することは慎まなければならないが、靖国思想が絵空事の空想の産物ではないということを吟味することは靖国神社にとっても益であると考えられる。少なくとも、自己撞着していない、体系的な教義を確立することは、いやしくも一宗教と呼ばれるために必要な、最低限の条件であるはずである。「鰯の頭も信心から」というが、靖国神社が仰々しい鳥居を設置し、白い鳩ばかりを集め、様々な手段で「有難そうな」雰囲気を醸成したところで、確かな思想を確立しない限り、「鰯の頭」以上にはなれないのではないだろうか。

3)靖国神社には良心があるのか?

 
思想や信条の自由、学問の自由、表現・結社の自由などは、憲法がすべての人に対して保障しているかけがえのない権利である。しかし私は、これらの権利は、良心に照らして行使されるべきであり、責任を伴うべきものであると考えている。たとえば学問の自由があるからといって、いかにして人を大量に殺すことが出来るのかということを研究することは許されるのだろうかと考えてみると、私はそのような研究は学問の自由の乱用であるといわざるを得ないと思う。乱用か否かを判断するには、当人が良心に照らして、責任を持って権利を行使しているかどうかによって検討するほかないのだが、靖国神社には今のところ、誠意も良心も感じられない。今回の裁判でも、遺族に何の通知もなく、勝手に韓国人を合祀した非常識が問題として取り上げられているが、靖国神社は、自らの非を素直に認めるということが、誠意や良心を示すことになるのだということを知るべきである

最後にひとこと

 昨年の9月11日以降、イスラム原理主義とアメリカ資本主義とが、世界全体を巻き込んで対峙している。たがいに自己主張をして譲らないわけだが、本物の宗教あるいは本物の思想というものは、強力な自己批判能力や自浄作用を有しており、犯した過ちに対して再発防止対策を講ずることができなければならないと思う。思想・信教の自由は、この点から常に検討されるべきである。
 私はキリスト者として、キリスト教が歴史上、如何に多くの過ちを犯してきたかを知っている。キリスト教が真実な宗教として立ちゆくためには、罪を悔い、自己改革を推進するための強力な良心が発動しなければならないだろう。韓国人靖国神社合祀絶止訴訟で問われているのは、第一義的には靖国神社や国家、裁判所の良心であることに間違いないが、それと同時に、私たち自身の生き方も問われているのだということを覚えなければならないと思う。グングン裁判が、日韓両国の良心を問い直し、現代人の精神的な退廃を食い止めるものになることを期待してやまない。

読書案内 靖国の戦後史
          田中伸尚 著(岩波新書 780円+税)

 この季節になるといつも持ち上がる「靖国問題」。いつになれば両国とも心の理解が得られるのでしょうか? 一般に流されているマスメディアの情報だけでは本質が見えてこないこの世の中で、自分なりに事の真実を見ようとする眼を持ちつづけたい・・。この本は私にそう思わせる一冊です。この夏じっくりと何度も読んでみてはいかがでしょうか?  (畑のり)
 

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GUNGUNインフォメーション

8月10日(土)「2002平和のための証言集会ーアジアから見た靖国神社」
          13時30分開始 シニアワーク東京(JR、地下鉄「飯田橋」徒歩5分)
8月15日(日)「戦争犠牲者に思いを馳せ心に刻む集会」(大阪)
          10時 クレオ大阪西ホール(JR「西九条」駅徒歩3分)
          証言:李煕子さん、金城実さん、台湾からの靖国合祀拒否者
9月11日(水)GUNGUN第3回公判 11時30分〜(東京地裁710)

9月13日(金)日本製鉄供託金返還裁判 14時 (東京地裁202)