控訴審 第4回口頭弁論報告 2008年12月2日 東京高裁


「靖国合祀は『幽閉』、霊魂は故郷に帰すべき」(朱剛玄さん)
「子として父の小さな名誉回復を」(李熙子さん)


 12月2日、在韓軍人軍属裁判(グングン裁判)控訴審第4回口頭弁論が、東京高裁101号法廷で開かれました。この日は、韓国から韓国民俗文化研究所所長で民俗学者の朱剛玄(チュ・カンヒョン)さんと原告・李熙子(イ・ヒジャ)さんが証言台に立ちました。
 
靖国合祀と家族の祭祀は相容れない

   
 
 

報告集会で

 最初に証言に立った朱剛玄さんは、政府の委員も務めている韓国民俗学の第一人者。「靖国神社合祀は、韓国の慣習からしてどうか?」との問いに「韓国人の長い伝統的慣習に違反する。加害者と一緒に祀られるということはありえない」とし、「(霊魂幽閉とは)そこにとらわれるという意味で、学問的に韓国人の普遍的な歴史観念からみると、靖国神社に祀られている霊魂は、監禁されているということ」であり、靖国神社と韓国と同時に祀ることは「霊魂は一つだからありえない。生きている人間の命も大切ですが、亡くなった霊魂も大事」と答えました。
 朱剛玄さんの証言は、靖国神社での合祀は「幽閉」であり、家族の祭祀と相容れず、霊魂は故郷に帰すべきというもので、これまでの原告の陳述を補完する証言となりました。
 
子どもとして父の名誉回復を

 李熙子さんは、気持ちを抑えるように静かに話しだしました。「父は植民地支配された民族として無念に死んでゆきました。私の家族はそのために破壊された。子どもとして父の名誉を回復したい。それが子としての親孝行だと思う」「そこに(靖国神社に)名前がおいている限り、誠心誠意祀って下さるといっても家族の立場からすると監禁されている」と締めくくりました。靖国合祀の取り消しは、今なお続く植民地支配からの解放だということが明確になった証言でした。

第5回口頭弁論は2月24日 生存者を韓国から招請します

 次回第5回口頭弁論は、急遽2月24日に延期になりましたが、これで結審になります。この間、原告は遺族が続きましたので、最後に生存者を招請したいと考えています。ぜひ傍聴席を満員にして締めくくるために、傍聴をよろしくお願いします。

 

朱剛玄さんの証言(抜粋:聞き手は大口昭彦弁護士)
 
 

朱剛玄さん

Q 他国あるいは他郷での客死、あるいは変死、異常な死、あるいは死体が放置されたままになっていたとか、遺族に対してその死が知らされなかったとか、このような不幸な死がそれに当たるとされるわけですね。
A これは大変悪い場合です。

Q そういう先ほどの祖上と呼ばれた霊は、子孫あるいは社会に対してそれを非常に守るという存在ですが、逆にそのような不幸な霊魂というものは、自分も悲しみ、苦しみ、子孫に害を与え、また社会的にも害を与える恐ろしい存在だと考えられているわけですね。
A そうです。

Q そのような霊魂は、鬼神あるいは怨鬼、恨みを持った鬼と呼ばれて恐れられているわけですね。
A そういう風に呼びます。

Q 韓国では伝統的に、あるいは現在の社会的な規範意識として、自分の肉親が異国、異郷で異常で非常に不遇な死を遂げたという場合、遺族としてどうしなければいけないと観念させるわけですか。
A 必ずその霊魂を取り戻して、探して戻さなければいけないと思っています。

Q 恨みに苦しんでいる霊をその恨みから解き放ってあげなければならないと考えられるのではありませんか。
A その恨みを持った霊魂を探してでも連れてきて、その霊魂の悪いところを解決しなければならないといいます。

Q それが韓国では解怨(ヘウォン)、恨みを解く、このように言われているのではありませんか。
A そうです。

Q そのような解怨は、 どのような手続、意識として通常行われるのですか。
A 多様な韓国式の宗教の儀礼でもつて執り行います。

Q それがムーダンによるクッと呼ばれるものですか。
A はい、そういう形式を持ちます。

Q 先生の学問的な一つの術語といいますか、カテゴリーとして、霊魂幽閉という考え方があるようですね。
A 幽閉というのは囲われると,そこにとらわれるという意味です。

Q 本件の原告でもある遺族の中には、自分たちのお父さんの霊魂が靖国神社にとらわれているんだと、韓国にいまだ帰って来られずに閉じ込められているのだと感じる方が多いようなのですけど、そのような考え方は、そういう韓国の伝統的な考え方から見た場合に、どのように評価されるでしょうか。
A 学問的に韓国人の普遍的な普通の歴史的観念から見ますと、靖国神社に祭られている霊魂は、祭られているのではなく、監禁されていると思います。

Q そのような、例えば自分のお父さんが戦後解放後もそのような事態にあるという場合に、子供としてはそれをどのように感じ、またどうしなければならないと考えられるわけですか。
A 韓国は儒教の社会です。子供は親孝行しなければなりません。もしも自分の親の霊魂が監禁されているんであれば、それを必ず取り戻さなければ親不孝になります。

Q 先ほど先生がおっしゃられましたように、韓国での習俗、また考え方からして、その身体と霊魂は対応してるのだと、一対一なのだという風な認識からしますと、 日本側で靖国神社のほうで、いや、うちで祭るんだ、英霊だから祭るんだとされている限りは、韓国にお迎えして、それをお祭りするということができないのではありませんか。
A 靖国神社で霊魂を祭るのと同時に韓国で霊魂を祭ることはあり得ません。というのは霊魂は一つですので、それを分けて分祀するということはあり得ないです。

 

李熙子さんの証言(抜粋:聞き手は殷勇基弁護士)
 
 

李熙子さん

Q 李熙子さんは10歳のときに、お父さんに対して誓いを立てられたんですよね。
A はい。父が帰ってこないので、母は再婚をしました。無念に亡くなった父の子供として恥ずかしくない生き方をしたいと覚悟を決めました。

Q 先ほど朱先生の証人尋間を聞いておられたと思いますけれども、韓国人にとっては霊魂が靖国神社に監禁されてるようになってるという受け取り方が普通なんだというお話をお聞ききになりましたでしょうか。
A はい、そうです。

Q それについて付け加えることがありますか。
A 父は植民地支配の民族として無念に死んでいきました。私の家族はそのために破壊されました。子供として父の名誉を回復したいです。そのため父の名前、二つの文字を必ず取って帰りたいです。それが子供としての親孝行だと思います。それができなかったら親不孝になってしまうので、それのために今まで裁判を進めていると思います。

Q 2001年の夏にも靖国神社に行ったことがありますか。そこでどのようなことがありましたか。
A 汚い朝鮮人帰れというふうに、日本の国旗を持って悪いことをしている集団もいました。

Q そのような出来事を受けて、どのように李熙子さんはお考えになりましたか。
A この汚い靖国神社から1日でも早く父の名前を取りたいという覚悟を新たにするようになりました。