2016年3月

「戦没者の遺骨収集の推進に関する法律案」成立!
   
     私たちの取り組みと今後の展望


遺骨問題は「個人の尊厳を回復する」闘い 
「焼骨してすべて千鳥ヶ淵へ」の時代に終止符を!  

 
  川田議員
 「時の為政者によって傷つけられた個人の尊厳を回復するという点では、私は、自分自身薬害の被害者として、こうした亡くなった後も個人の尊厳を回復するための国の責任というものを大変重いと感じております。国のために犠牲となった戦没者の御遺骨の収集は国の責任であり、この法案第2条にあるように、ただ収集をするのではなく、御遺族の元にお返しするところまでしっかり行うのが国の責任である」。これは2月18日参議院厚生労働委員会での川田龍平議員の発言です。薬害エイズ被害者として国・厚生省と闘った川田議員の言葉の重みを感じます。「死人に口なし」とよく言われますが、「靖国の英霊」などと死後まで国に利用され、個人の尊厳を傷付けられた人々の悔しさを受け止める作業こそが、遺骨を故郷・家族に還す闘いです。
 残念ながら今回成立した「戦没者遺骨収集推進法」は基本部分で韓国人を視野に入れない不十分なものです。しかし塩崎厚生労働大臣の発言にあるとおり、今後韓国政府を動かすことができれば展望は切り開かれます。
 以下、法律成立過程での私たちの取り組みと今後の展望について報告します。
 
韓国から見た「戦没者遺骨収集推進法」成立過程とこれから(上田)

 
  ニューギニアでの遺骨
 
  川田議員と
 
  ヒジャさん
 
  具志堅さん
 遺骨問題について、国会とくに、2・3月の参議院厚生労働委員会での論争と前進は画期的なものでした。2月18日の参議院厚労委員会法案通過時での津田議員の質疑と、塩崎大臣の答弁を韓国のハンギョレ新聞はこう報道しました。「津田弥太郎議員はさる18日参議院厚労委員会で“去る大戦で多くの韓半島出身者が過去の日本軍兵士・軍属として各地で戦死した。この問題を補償問題や慰安婦問題と連係せずに、また費用を適切に韓国側が負担するという前提の下、遺骨のDNA鑑定に対する韓国側の要請が来た場合日本政府は拒絶してはいけない”と指摘した。これに対する返事で塩崎厚生労働大臣は“韓国政府から具体的提案があればこれを真剣に受け止め政府の中で適切な対応を検討する考えだ”と返事をした。日本政府が韓国人遺族たちのDNA鑑定要求に協力することができるという方針を明確な形態で明らかにしたのだ。この作業が円滑に進行されれば日本政府が発掘する第2次世界大戦犠牲者の中に混ざっている韓国人の遺骨が70年ぶりに遺族のもとに戻ることができるようになる」と。補償が切り離される、韓国側に一定の負担を求めている、日本政府が韓国政府に呼びかけずに韓国側からの具体的提案を待つなどの限界があるのは事実です。しかし津田議員の質疑に対し、塩崎大臣が仮に「この法律は“我が国(日本)の戦没者”を対象としたものである。発掘現地で韓国人とわかる遺品が出てきたら韓国と交渉する」と今まで通りの絶望的な答弁がされた場合を考えれば、日本政府の大きな方針転換です。慰安婦合意の激震で日韓関係が大きく揺れるさ中に、堂々と参議院厚労委員会で確認された方針転換です。遺骨問題は日韓条約では終わっていない、終わりようのない人道的な問題であると、遺骨問題への支持を広げてきた私たちにとって、遺骨が遺族のもとに帰る可能性を作り出す大きな道を切り開いた答弁でした。
 韓国の世論は、どう動いたでしょうか。ハンギョレに続き、聨合ニュースは、「法律は収拾対象遺骨を'我が国(日本)戦没者'のことで限定することによって日帝強制占領期間に日本軍や軍属(軍務員)で動員されて戦死した朝鮮人犠牲者は適用対象で排除された」と法律の基本構造を徹底批判しつつも、塩崎大臣の発言については、ここを突いて遺族の希望を実現していくしかないとの論調で、韓国政府に積極的対応を促しています。韓国各新聞・ネットニュースは遺族からの韓国政府への具体的提案を求める声を繰り返し報道しています。太平洋戦争犠牲者補償推進協議会は、すでに政府との交渉を行い、国会議員選挙後の国会の人事配置が決まる6月に、外交通商部に新しく配属される国会議員とともに、政府交渉を進める準備を進めています。すでに韓国政府もまた、韓国人遺族の遺伝子銀行の設立に向けた予算計上を公表するなど、日本政府への対応策を取り始めています。
 
 李煕子(イ・ヒジャ)さんが3月16日、国会でのDNA学習会・第5次国会議員ロビー行動のため来日した時、着くなり「なんで塩崎発言について日本政府が韓国にその内容を伝えないのか?」と、私に怒っていました。遺骨問題の展望は出てきたものの、日本政府から言ってこないのはけしからんということです。「大臣が国会で言ったことは、取り消せない。国際的に見て、韓国に言ったのも同じ。」と言うしかありませんでした。しかし、2日間、国会で一緒に動く中で、ヒジャさんは具志堅さんに「具志堅さんの何十年の努力が花開く時が来た」と話していました。そして最後に「沖縄の県民の鑑定ができるように頑張って」と、私たちに言い帰国しました。法律ができて日本人にはしっかり対応すると思っていたのに、今のままでは厚労省は日本人にもちゃんとしない。そんな厚労省と闘っている私たちの姿を目にして出た言葉です。「日本人にしないのに韓国人にするわけがない。まずしっかり遺骨収容の法律を日本で作って」。ずっとヒジャさんが、私たちに言ってきたことです。さっそくヒジャさんは、韓国に帰り「“日本は歯から検体を採るため、歯がない遺骨は火葬すると聞いている。韓国政府の対応が遅れ、火葬されてしまえば遺骨返還が不可能になる”と懸念を示した」(聨合ニュース)とマスコミに発言し、連係した動きを作り出していただいています。

スタートの沖縄で「四肢骨」からのDNA鑑定実現を!
 
 
ニューギニアでの遺骨  
 沖縄から始める方針を3月中に厚労省が出すということが決まっていました。まず沖縄戦遺族のDNA鑑定呼びかけに沖縄の県民犠牲者が含まれるのかどうかという大きな問題。そして、遺族の高齢化や今後の発掘を考えれば一度とったデータをデータベース化するか否かという問題がありました。また、遺骨側のデータベース化はすると言っていましたが、沖縄が独自に保管する四肢骨600体について、厚労省は個体性のない遺骨、DNA鑑定に必ずしもつながらない骨として焼いてしまおうとしていました。これらの問題に前進しなければ、塩崎大臣の発言の効果、つまり、韓国人遺族に遺骨が戻る希望は、数分の一になってしまうのです。沖縄戦の最大の犠牲者である沖縄県民を鑑定から外したら、韓国人遺族に寄り添う事業になるはずがありません。父である足や腕の骨が、個体性がないなどと言って勝手に焼いてしまえば、沖縄だけでも600人の遺骨が遺族に帰る道を閉ざされます。沖縄で歯だけであれば87件しかないのです。沖縄でスタートする基準が、アジア太平洋地域全体の遺骨鑑定の事業全体に波及するのです。私たちは3・16国会内DNA学習会と第5次ロビー活動を通じ、参議院厚労委員会での第2ラウンドの闘いを準備しました。すべての沖縄出身国会議員5名に、沖縄県民を鑑定呼びかけに入れること、四肢骨も鑑定することを厚労省に訴えてもらうよう要請し、また参議院厚労委員会一般質疑での四肢骨問題での再論争を準備しました。その結果3月22日厚労委員会一般質疑において川田隆平議員の追及に厚労省は「沖縄で戦闘に巻き込まれた方は対象となる」と明確に答えました。また塩崎大臣は、「今すぐ歯以外でもDNA鑑定をするほど今科学的な知見の集積は日本でされていない。韓国を含め、どのようなことが科学的に証明可能なのかということをよく考えていく」と回答しました。沖縄県民への鑑定実施に加え、四肢骨鑑定が射程に入ってきたのです。
 
 3月29日、厚労省が沖縄方針を発表しました。私たちは、3月22日の塩崎発言以降この発表までに塩崎大臣に、重要な資料を提示しました。1つは朝鮮戦争犠牲者の遺骸発掘調査を行っている韓国国防部遺骸鑑識団が四肢骨を中心に鑑定している写真です。続いてもう1つがソウル大学大学院の博士論文です。この論文は鑑識団の活動を分析している2007年の論文ですが、朝鮮戦争犠牲者の鑑定事業で、歯よりも四肢骨のほうが、DNA抽出がよりできており、実際、歯よりも四肢骨から鑑定しているという論文です。これを翻訳し、川田議員を通じて塩崎大臣に渡しました。その結果、塩崎大臣から四肢骨について鑑定の対象となるか検討をするよう指示されたことを、厚労省は川田事務所に明らかにしました。

ソウル大大学院博士論文一覧表@  
韓国でのDNA採取作業
DNA検査に使われた骨の割合(%)
大腿骨
上腕骨
脛骨
尺骨
奥歯
橈骨
その他
58.0%
15.6% (注:肩につながる腕)
15.2 % (注:むこうずねをなす太い骨)
 2.6% (注:前腕二本の骨のうち小指側にある管状の長骨)
 3.2%
 1.8% (注:前腕二骨の一つ,尺骨と並行している管状の長骨)
 3.4%

ソウル大大学院博士論文一覧表A  
朝鮮戦争遺族のDNA鑑定を
呼びかける看板
発掘された骨からのDNAテスト成功率  
  DNA採取濃度 A―STR Y―STR mtDNA  
  単位:ng/μL
(ナノグラム/マイクロリットル)
(常染色体STR) (Y染色体STR) (ミトコンドリアDNA)  
大腿骨 0.2030 90% 77% 100%  
上腕骨 0.1543 78% 64% 100%  
脛骨 0.0342 58% 39%  95%  
尺骨 0.0084 29% 21%  86%  
奥歯 0.0058 39% 14%  78%  
橈骨 0.0031 35%  9%  60%  
その他 0.0035 19% 13%  40%  

 
赤嶺議員と  
 3月29日発表された厚労省沖縄方針の概要は以下の通りです。@真嘉比(那覇市)53件、幸地(中頭郡西原町)14件、平川(南城市大里)5件、経塚(浦添市)3件の歯の検体からDNAが抽出されており、まずこの4か所75件の遺骨(沖縄全体の9割)をデータベース化する。A平成28年度の早い時期に2533名の遺族への鑑定呼びかけと鑑定を行う。(その中には軍人軍属のみでなく平和の礎に刻銘された一般県民も含む)B鑑定により身元が特定されなかった場合について原則遺族のデータは廃棄するが、遺族が保管を希望する場合は一定期間保管し、後日使用する。C太平洋地域も含む8000体の遺骨について、平成28年度中にデータベース化を行い、沖縄4地域の結果を踏まえて、ほかの地域について遺族への呼びかけ実施を検討する。というもので、方針発表の記者会見では、「手や足からもDNAはとれる」と厚労省が含みのある発言するに至っています。
 私たちが、求めていた遺骨検体・呼びかける遺族数・部隊名(部隊名は後日、参議院厚労委員・森本しんじ事務所が追及し公開された)の情報公開がされました。特に遺族の実質的なデータベース化方針が初めて示されました。3月22日の国会質疑からわずかな期間でしたが、沖縄方針発表にも大きな圧力をかけました。第5次ロビー活動で要請した沖縄出身国会議員もぎりぎりまで厚労省を呼びつけたり、質問書を出したりしました。具志堅さん、沖縄の国会議員のみなさん、川田龍平事務所、森本しんじ事務所、ぐんぐんの仲間が一致団結し厚労省沖縄方針発表に短期間に大きな圧力をかけてきました。
 
 さて、次の国会論戦では、四肢骨の鑑定を認めさせることが課題になります。この闘いは、残る通常国会、秋の臨時国会、おそらく来年の通常国会にかかる1年がかりの長い闘いになります。600件の遺骨に含まれる韓国人の父の遺骨を焼かせてしまうわけにはいきません。「日本人遺族と連帯し、韓国人遺族の問題を解決する」。私たちのこの方針は、両国の遺族の目線から問題を提起し、思いを伝え、党派を超える国会議員の理解と行動を得てきました。それは政府の説得にもつながっています。沖縄の600体の遺骨(四肢骨)を鑑定に入れることは、一片の遺骨でも返してほしいという遺族の要求そのものです。70年の沖縄県民遺族の思いを声に出すために、6月沖縄県議会再決議の実現を具志堅さんと相談しています。6月に韓国で、新国会議員とともに外交通商委員会を通じた韓国政府に対する要請が本格的に始まります。沖縄戦でなくなった韓国人軍人・軍属の多くが行方不明扱いとなっており、このことも課題として浮上してくるでしょう。
 私たちは、2月3月にこの大きな山の5合目に一挙に到達しました。衆議院厚労委員会での法案通過時まったく、なすすべもなかった私たちが、参議院厚労委員会で大きな議論と展望を作り出しました。6合目7合目の課題は見えてきました。沖縄県民と連帯しこの山を登っていくこと、そして韓国政府に日本政府への具体的要求を行わせること、この2つを日本と韓国で進めていきましょう。

3・16「DNA鑑定に関する国会内学習会」を開催(古川)

 3月16日、ノー!ハプサ(合祀)の口頭弁論後に、参議院会館で「戦没者遺骨DNA鑑定に関する国会内学習会」を開催しました。
 「ガマフヤー」代表の具志堅隆松さんが沖縄での遺骨収集の現状について報告。次に「文系でもわかるDNA鑑定」と題してこの問題について協力を申し出ている「NPO遺伝子情報解析センター」の研究員から、DNA鑑定のしくみや日進月歩の科学技術の発展などを学びました。方法次第で鑑定の精度を上げることが十分可能であることや、厚労省が「地名、部隊名」が判明している人に限定したり、「歯」に限って鑑定を行うなどと、恣意的な基準を設けてきたことの不合理性が明らかになりました。
 集会には川田龍平議員をはじめ2人の議員、5人の議員秘書も参加。川田議員からは「戦争によって奪われた遺族の時間を取り戻すためにも最善を尽くしたい」と厚労委に向けての決意が述べられました。
 最後に、韓国から参加されたノーハプサ原告鄭鎮福(チョン・ジンボク)さんのお父さんの戦死地クェゼリン島からは、昨年15体の遺骸が収容されており、その中に鄭鎮福さんのお父さんの遺骸が含まれる可能性が十分考えられることを全体で確認しました。
     
川田議員と具志堅さん 遺伝子情報解析センターの山田さん 鄭鎮福(チョン・ジンボク)さん