東京高裁の不当判決を糾弾する!―韓国人「合祀」判断から逃げた東京高裁―(声明)

 10月29日、東京高等裁判所は在韓軍人軍属裁判控訴審について「全てを棄却する」不当判決を下した。「裁判所は、憲法違反さえ断罪できないのか」、法廷には怒号が飛び交った。判決は原告等の請求に応えない不当極まりないものであり、これが高等裁判所での検討なのか疑わせるものであった。

 判決は、日韓請求権協定の適用範囲について、悪しき一審判決に加え、日韓協定が言う「完全かつ最終的に解決された」の一言をもって「控訴人らの合祀関係の請求が日韓請求権協定等の対象外になるものではない」という考え方を示している。当然、BC級戦犯問題や戦後行われたシベリア抑留についても日韓協定で解決済、「詐術、欺罔行為、圧力等」については証拠がないと決め付け失当とした。

 日韓請求権協定は、冷戦時代に韓国の独裁政権を支援するために締結されたものである。情勢は大きく変わっている。冷戦は崩壊し、日本では1994年「植民地支配と侵略を反省」した村山談話が出され、新たに発足した鳩山政権は、李明博韓国大統領との会談でこれを受け継ぎ、「正しく歴史を見つめる勇気がある」と強調した。にもかかわらず、判決は、いまだ冷戦構造のもとでの日韓請求権協定の解釈を金科玉条のようにふりかざし、なおかつ、さらに適用範囲を拡大さえしようとしているのである。植民地支配の清算を進めるべきこのときに過去の誤った協定によりかかり、検討もなおざりに判決がなされているのだ。

 靖国合祀問題については「ひどい」の一言につきる。

 韓国人原告らに対する深刻な人格権・人権侵害について一切検討せず、「その余の点について判断するまでもなく」と切り捨てたのである。その理由は、国・靖国神社一体の合祀ではなく、政教分離違反でもないから、というのである。本末転倒である。国が大規模に長期間係ることによって、また、外国人の情報を勝手に通知したから起きた深刻な人権侵害があるからこそ、その救済が求めてられているのである。

 国・靖国神社一体となった合祀について、判決は「事務量が膨大であることなどから、予算を取り要綱を定めて組織的に長期間にわたり行っていた」と認定しながらも、都合のいい事実のみをとりあげ、国は情報を提供していただけで「国と靖国神社が一体となって合祀を行ったと認めることはできない」とした。『祭神』は靖国神社の要である。その決定への協力が宗教行為への協力でなく何が協力となるのであろうか。

 政教分離規定違反については、「国の上記行為の宗教とのかかわり合いは、直接的ではある」と認定しながらも、「事務量が膨大」であるので、「宗教との直接的な係わり合い」もやむをえないというのである。こんな暴論が通用するのであろうか。

 また、裁判所は、原告等が韓国人であること、合祀されているのが韓国人の父らであること、合祀されたのが1959年であることを都合よく忘れている。通知された情報は外国人に関する情報であり、韓国人遺族に死亡通知さえせず、1952年援護法では国籍条項により旧植民地出身者を排除した厚生省が、靖国神社には韓国人含めいとも簡単に通知したのである。真摯に問題に向かい合うならば、このような判決はできるはずがない。

 最後に、あまりにもひどい行為に、「国の側に一般の国民に対する協力よりも手厚く靖国神社の合祀支援をする意図が全くなかったとは言い切れず、その行為の規模の大きさや期間の長さに照らし、一般人がこれを靖国神社を特別に優遇するものではないかと感ずる可能性も否定できない」「社会通念にしたがって言えば、国の上記行為は、一般人に誤解を与えかねない行為として適切であったとはいえない」といわざるをえなかったのである。

 弁護団、支援する会は、不当判決をはねかえし、原告の要求を実現するために、原告、太平洋戦争被害者補償推進協議会、太平洋戦争韓国人犠牲者遺族会とともに、司法の場のみならず、全ての分野で最後まで闘う決意である。

2009年10月

在韓軍人軍属裁判弁護団
在韓軍人軍属裁判を支援する会